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研究員ブログ

TMRI ColumnNo.22

オンリーワンの観光資源をつくる
~地方創生の現場から(4)愛媛県西条市~

国内の自治体がさまざまな課題を抱えているのは言うまでもありませんが、だからと言ってその街を出て他の街に移ろう、と考えることはそう多くはないような気がします。住みにくいところもあるけれど、住み始めるとそれが当たり前で気にならず、まさに「住めば都」という状態になっているのではないでしょうか。問題は、その街の良さとしてアピールできることが「当たり前」の中に埋没してしまい、日の目を見なくなってしまうことのような気がします。2月初旬に訪問した愛媛県西条市も、街が持つ良さを十分にアピールしきれていない自治体のひとつだと思いました。換言すれば、良い材料を使って街を活性化する伸びしろは大きいと言えるでしょう。

0系新幹線

写真1 0系新幹線

松山市から電車で1時間ほどの距離に位置する西条市は、人口約11万人(県内4位)の地方都市です。かつては四国最大の製造品出荷額を誇っており、現在でも四国で3位の工業都市です。さて、松山は「坊っちゃん」や「道後温泉」、今治なら「タオル」というように連想されるでしょうが、西条と言えば何でしょうか。

今回の西条市訪問で2つの観光資源を紹介いただきました。まず第1に「鉄道」です。西条市のJR伊予西条駅前には「鉄道歴史パーク」が整備されています。鉄道を学ぶ施設である「四国鉄道文化館」には蒸気機関車(SL)やディーゼル機関車などの貴重な実物車両が展示されています。そして驚くことに、懐かしい0系新幹線(写真1)もあり、自由に触ったり運転席に座ったりすることができるようになっています。「新幹線が走っていない四国になぜ」と疑問を持たれると思いますが、それは西条市長(第2代)を務めた後に国鉄総裁(第4代)に就任し、新幹線の生みの親とも称される「十河信二(そごうしんじ)」に由来しています。鉄道歴史パーク内には、十河を顕彰するための記念館もあり、貴重な資料で功績を紹介しています。ちなみに、東海道新幹線の東京駅18・19番ホーム先端にも十河の功績を讃える碑が建立されています。

市内のうちぬき

写真2 市内のうちぬき

観光資源の第2が「水」です。西条市は西日本最高峰の石鎚山のふもとにあるため地下水が豊富な地域であり、日本でも珍しい地下水の自噴地帯となっています。市内には、わかっているだけで2000カ所以上の「うちぬき(写真2)」という自噴井があります。また、自噴していなくても、地下にパイプを挿してポンプで汲み上げるだけで簡単に水を利用できることから、市内の多くの世帯では自然の水を利用して生活しているそうです。地下から得られる水は「名水百選」に選ばれているほか、かつては全国の利き水コンテストで2年連続優勝するなど高品質だということでした。筆者も湧いている水を何カ所かで飲ませていただきましたが、軟水で飲用に適しており非常に美味しいと感じました。このように、水資源に恵まれた西条市は「水の都」と呼ばれています。

鉄道と水という二つの観光資源は、それぞれ大変魅力的ですが、失礼ながら全国的な認知度や集客力は十分とは言えません。そこに不足しているのは「観光資源に付随するストーリー」なのではないしょうか。

西条市・青野市長

写真3 西条市・青野市長

外部の人間が現地を短時間視察させていただいた上での思いつきレベルではありますが、今回ご対応いただいた西条市の青野市長(写真3)以下、多くの市職員の方にご提案させていただきました。

鉄道であれば、「新幹線」が生まれるまでの苦難や国内外の高速鉄道の歴史、実際の車両展示に至る総合的な高速鉄道博物館を目指すといったように、一点にテーマを絞って国内随一の展示内容に仕立てるとインパクトが増すと感じました。さらに、資料展示だけではなく、運転シミュレーションなど実体験できる展示があれば、子どもを中心に多くの人々を呼び込むことができるのではないかと思いました。

水であれば、市内2000カ所以上という「うちぬき」の存在が極めて珍しいことを日本国内のみならず世界的にも強く発信し、アジア人を中心としたインバウンドを「水の都」に誘うというのも一手かと思います。市内の主要な「うちぬき」を観光に耐えるだけの施設に整備した上で、「うちぬきめぐりのスタンプラリーなどゲーミフィケーション(物事をゲーム化すること)の導入」「かき氷やお酒の水割りなど、水を活かした飲食の提供」といった、オンリーワンの体験やクリーンな体験ができる水のテーマパーク「西条ウォーターワールド」を目指すのはいかがでしょうか。

執筆者主席研究員 渡辺 宏一郎