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研究員ブログ

TMRI ColumnNo.17

超小型モビリティのシェアリング(実車編)

前回のコラムでは、茨城県つくば市で行われている「超小型モビリティ実証実験」に参加するための講習の様子を紹介しました。今回は、実際に超小型モビリティを運転して個人的に感じたことを書いてみたいと思います。

筑波山とNMC

写真1 筑波山とNMC

講習を受けて講習受講済証が発行されると、いつでも超小型モビリティを利用することが可能です。実験参加者向けのWebサイトが用意されており車両の新規予約や予約変更がいつでも可能となっています。いざ予約しようとすると、近い日程ではほとんど全ての時間帯が予約済みとなっていましたが、たまたま半日空いている時間帯があり、予約することができました。市職員の方に伺うと、どの利用者もなかなか予約できずに苦労している様子で、予約キャンセルが入るとすぐに新しい予約が入る状況だということです。予約は1人2件までとなっていますが、前回書いたように予約時間に制限がないため、半日あるいは1日単位で予約を抑えてしまう方が多いことや、予約と予約の間に充電のためのインタバルを1時間半設けていることも予約がとりづらい要因になっているようです。

予約している日時に、つくば駅前にある市の施設(つくばサイエンス・インフォメーションセンター)で免許証・講習受講済証と、Webサイトの予約完了画面をスマートフォンで提示し、車両のカギを受け取ります。歩いてすぐそばにある地下駐車場の一角に超小型モビリティのステーションが設けられており、車両が充電ケーブルに接続された状態で停められています(写真2)。利用者自身がケーブルを外して車両に格納し、前述のWebサイトにある「利用開始」ボタンを押すと、いよいよ乗車が可能となります。

充電中のNMC

写真2 充電中のNMC

地下駐車場から地上に出る際、上り斜面途中に精算機があります。タイヤ部分が車両の横に飛び出た形態のため、ハンドルを切った時の回り具合(内輪差)が普段乗っている自動車と異なっていることもあり、最初は車両感覚がうまくつかめずに、精算機のチケット挿入口が少し遠くなってしまいました。また、オートマチック車と違い、クリープ現象(アクセルを踏まなくても車両が前進する現象)が全くないため、ブレーキペダルから足を外すと、結構な勢いで後退を始めます。そのため、坂道発進時にはブレーキからアクセルにかなり素早く踏み変える必要があります。この点はマニュアル車の感覚に近いと思いました。

アクセルを踏み込んでから加速するまで若干のラグがありますが、これは電気自動車固有の急発進を回避するための仕様とのこと。走り出した後は電気自動車と同様にスムースに加速していきます。今回運転したNMCは最高時速80kmで設計されています。実際には時速60km程度で走行しましたが、キャノピーがあるために恐怖感はそれほど感じません。乗り心地も悪くはないのですが、サスペンションは硬めで道路の凹凸が直接体に伝わってくる感じです。ゴルフをされる方には、ゴルフカートを高速で走らせている感じとお伝えすればイメージしやすいかもしれません。

加速に対し、ブレーキングには多少の慣れが必要と感じました。車体重量が約500kgと車体サイズに対して相対的に重くなっていることや、発電をしながらブレーキ効果も生じさせる回生ブレーキがあるものの、ガソリン車のエンジンブレーキほどは強く効かないように感じることから、ブレーキをゆっくり踏んでいると、完全に止まるまでに思っている以上の時間がかかります。急ブレーキのように思い切り踏み込めば制動距離は短くなりましたが、車体のがたつきが生じ、あまり望ましい操作とは言えないでしょう。いつもの自動車以上に、かなり早めにブレーキをかけ始めることを心掛けた方が良さそうです。

駐車中のNMC

写真3 駐車中のNMC

バックする時も注意が必要です。そもそもバックミラーがなく、また今回利用したタイプのNMCではリアガラスがないため振り返っても真後ろを見ることはできません。バック時には、フェンダーミラーでの確認と、横から顔を出しての目視が必要となります。試しに機械式立体駐車場に入れてみたところ、乗用車と異なり運転席が車両の中央にあるため、いつもの調子でバックすると、端に大きく寄ってしまいました(写真3)。当初懸念していた「ガルウィングドアで車高が高いため、機械式駐車場に入れられないのではないか」との問題に関しては、今回は写真の通り全く問題ありませんでした。(駐車場の仕様によっては、超小型モビリティが利用不可のケースもあるので注意が必要です。)

以上は車両の特性に関わる部分で、「慣れ」が問題を解決してくれるかもしれません。一方、今後本格的な普及を目指すのであれば、ユーザーとして是非改良していただきたいと思える点もいくつかありました。

まず、現行仕様では車室が完全に密閉されないため、外気・雨雪などが内部に入り込みます。もちろん操作機器やインテリア類は水に濡れても良い仕様になっています。今回は天候が良かったため不快感はあまりありませんでしたが、それでも並んで走行する大型車の排気ガスをまともに吸い込んだり、得体のしれない虫が飛び込んで来たりと、ときどき辛い思いをしました。つくば市の実証実験においても、雨の中を走行中、大型車が跳ね上げた水のかたまりを全てかぶってしまったという事例があったそうです。オートバイ(やオープンカー)を普段から利用している方であれば気にならないのかもしれませんが、普通の乗用車ユーザーにとっては、ちょっとしたカルチャーショックと言えます。「寒い時には乗らない方が良い」「降雨時は合羽(カッパ)を着れば乗れる」との声もありますが、いつでも気軽に乗れるのが超小型モビリティの目指す姿でしょうから、居住快適性の改善を図っていただきたいところです。ちなみに、一人乗りのコムスは、ファスナー式の扉で、一応雨風を凌げるようになっています。

また、車内はかなり狭く感じます。二人乗りができないわけではありませんが、後部座席では運転席を両足で挟むように伸ばして乗り込まなければなりません。但し、大人には少々窮屈ですが、小学生の娘を乗せたところジャストサイズでした。塾や習い事への子どもの送迎にはうってつけなのではないか、と思いました。加えて、荷物を収納するスペースもほとんどありません。街の中で近距離移動に使うといっても、手ぶらのケースは少ないでしょう。デリバリー用の一人乗りコムスという車種では収納スペースが確保されていますが、全ての超小型モビリティに買い物したものくらいはしっかりと積み込めるゆとりが必要だと感じました。

今回はつくば市内を約40km走行しましたが、バッテリーの3分の1しか使いませんでした。南北30km・東西15kmのつくば市の中を移動するだけであれば、NMC100km、コムス50kmという航続距離は十分な性能ですし、走行可能距離もメーターパネルに表示されますので、電気自動車で少し遠出をした時のように、バッテリー残量を心配してドキドキするということは全くありませんでした。なお、これまでの実験期間においては事故や電気切れの事例はないとのことでしたが、事故を起こしたり、電気切れで動けなくなったりした場合に備えて、車内には保険会社の事故受付連絡先とレッカー要請の連絡先が、目立つように掲示されていました。引受保険会社は弊社ではありませんでしたが、国内大手メガ損保の一社でした。

つくば市の超小型モビリティのシェアリングでは、実験ということもあり貸出と返却ステーションが同じラウンドトリップ型の運用となっています。出発したつくば駅前のステーションに戻ったら充電ケーブルをつなぎ、Webサイトで利用終了のボタンを押します。今回の実証実験では、自宅に寄ってそのまま寝込んでしまい、利用終了予定時刻を大幅に過ぎてしまったという事例があったそうです。現在は無料ですが、有料になった場合には、利用終了ボタンが押された時点で利用料金の計算を行うとのことですので、ボタンの押し忘れには気をつけなければいけません。実証実験なので、最後に運行記録表に走行距離やバッテリーをどれくらい使ったかということを記入して車両のカギとともに窓口に提出し、返却手続が終了します。

運転操作はそれほど難しくなく小回りがきくコンパクトな車両は、誰もが気軽な足として利用できるようになる可能性があるでしょう。今回も、走行中は歩行者や他の車両の運転手さんから好奇の目で見られ、駐車場では超小型モビリティの写真を撮ったり質問したりする方がいらっしゃいました。それは取りも直さず住民の関心の高さや期待の大きさの表れではないかと思います。現時点ではいくつか気になる点もありましたが、本格的に市販する前の実験段階ですので、今後改善が図られていくはずです。

今回紹介したつくば市をはじめ、各地で行われている超小型モビリティの実証実験を通じて、利用者、特に高齢者や女性などが利用しやすい車両の開発や、交通インフラの整備を進めていただきたいと思いました。あわせて、周囲を走行する一般ドライバーも、超小型モビリティのさまざまな特性を知り、理解しておくことが重大事故の回避につながると感じました。超小型モビリティの存在を、世間にしっかりと認知させていくことが今後の重要なテーマとなりそうです。

執筆者主席研究員 渡辺 宏一郎