To Be a Good Company

セミナー

2017年度自然災害リスクセミナー

自然災害研究の最前線
~津波リスクと企業および自治体に求められる対応~

2017年11月2日、東京・大手町にて自然災害リスクセミナー「自然災害研究の最前線~津波リスクと企業および自治体に求められる対応~」を開催しました。私たちが住む日本では、近い将来、南海トラフ地震や首都直下地震など、巨大地震に起因した津波被害が見込まれていることもあり、多くの方が本セミナーに高い関心をお寄せいただき、大変盛況なセミナーとなりました。以下では、セミナーにおける各講演の概要についてご紹介します。

開催日時・会場

セミナー会場の様子

セミナー会場の様子

  • 日 時
    2017年11月2日(木)13:30~17:00
  • 会 場
    大手町サンケイプラザ3階会議室
  • 主 催
    東京海上日動火災保険株式会社、株式会社 東京海上研究所

講演等の概要

開会挨拶
東京海上日動火災保険株式会社 取締役社長 北沢 利文
講演①津波リスク研究の最先端とこれからの防災対応
東北大学 災害科学国際研究所 所長 今村 文彦 教授
今村 文彦 教授

講演内容

過去に世界で発生した地震・津波の影響や東北太平洋沿岸における津波の歴史、シミュレーションモデルを用いた津波リスクの評価方法などについて、地震研究の専門家の視点からご講演頂きました。
ご講演のポイントは以下の通りです。

  • 過去に地球上で発生した地震の分布図を確認すると、地震はどこにでも均等に発生しているのではなく、帯状の狭いところで数多く発生していることが分かる。日本列島もこの帯状の地帯に位置している。また、日本の面積は地球の陸地面積の0.2%しかないが、地球上で発生している地震の20%が日本で発生している。
  • 過去100年の間に発生した巨大地震の分布図を見ると、地震の活動期・活発期には一定のトレンドがあることが確認できる。このことから、過去をしっかり見ることで、将来をある程度予測できることが分かる。この情報は津波発生時の避難や様々な対応を考える上での基礎資料になる。
  • 東北太平洋沿岸に過去発生した津波事例を見ると、①主に三陸海岸に襲来していること、②宮城・福島沿岸では被害例が少ないこと、③日本海溝沿いの地震で大津波が発生していること、④宮城県沖の地震による津波は小さいこと、が確認できる。
  • 津波のシミュレーションモデルを開発し、津波リスクの評価を行っている。東日本大震災にて発生した津波は、海水が泥や砂を巻き上げ、土砂を動かし、地形を変化させているなど、構造が非常に複雑であった。このような津波の複雑な構造をモデルに反映し、スーパーコンピューター京を使用した分析を実施している。
  • 東日本大震災で発生した津波を観測・調査したところ、我々が想像をしていなかった被害が発生していることを発見することができた。それは、泥水が肺に入ったことで引き起こされる津波肺や呼吸困難の症状である。もちろん、津波が発生した際には避難することが原則であるが、万が一、津波に流されてしまった場合にも、泥水を飲まないことが重要であると分かった。口元までカバーできるライフジャケットを準備するなど、漂流する力を身につけることも大切である。
  • 東北大学では、次の①、②を主なミッションとした災害科学国際研究所IRIDeS(イリディス)を2012年4月に設立し、防災研究の拠点の1つとして、自然災害科学研究の深化および実践的防災学の展開を実施している。自然災害科学研究とは、事前対策、災害の発生、被害の波及、緊急対応、復旧・復興、将来への備えを一連の災害サイクルととらえ、それぞれのプロセスにおける事象を解明し、その教訓を一般化・統合化することである。
    ① 皆様に、低頻度大災害に対してきちんと備えをして頂くこと。
    ② 地域で使える実践的な防災を知って頂くこと。
  • 津波避難訓練の新しい習慣をつくることを目的に、「カケアガレ!日本」プロジェクトが、東日本大震災で被害を受けた宮城県岩沼市でスタートし、各地に広がっている。このプロジェクトは、津波が発生した際にいかに迅速に避難できるかを一人一人が体験しながら、避難場所までみんなで駆け上がり、必要な情報を学ぶものである。
  • 地震・津波に備えている地域は、洪水にもきちんと対応している。さらに、自然災害に対応している地域は、交通事故も少ないと言われている。つまり、リスクに対する認識を高めることが重要である。また、リスクを正しく理解し、対策をきちんと行うことも大切である。
講演②津波防災地域づくりと海岸保全における対応
国土交通省 水管理・国土保全局 海岸室長 内藤 正彦 氏
内藤 正彦 氏

講演内容

南海トラフ地震で想定される津波、津波対策に対する考え方や東日本大震災を踏まえた防潮堤(海岸堤防)計画の考え方、津波防災地域づくりの取組状況などについて、国の立場からご講演頂きました。
ご講演のポイントは以下の通りです。

  • 我が国の海岸は、地震や台風、冬季風浪等の厳しい自然条件にさらされており、津波、高潮、波浪等による災害や海岸侵食等に対して脆弱性を有している。海岸の背後に集中している人命や財産を災害から守るとともに、国土の保全を図ることが極めて重要である。
  • 南海トラフ沿岸では、今後30年以内にM8~9クラスの地震が発生する確率が約70%であると考えられている。仮に南海トラフ地震が発生した場合には、広範囲にわたって10mを超える津波の到達が予想されるため、多重防御を基本とした総合的な津波対策が必要である。
  • 想定外の津波をできるだけ減らすために、最大クラスの津波を想定したL2津波を設定し、その対策を検討している。東日本大震災で発生した津波はこのL2津波に匹敵するものである。
  • 津波対策の基本的な考え方は、L2津波と比較的頻度の高いL1津波(数十年~百数十年の頻度で発生)とで異なってくる。L2津波に対しては、住民の生命を守ることを最優先として、避難を軸に、土地利用、避難施設などを組み合わせた総合的な対策が必要である。一方、L1津波に対しては、人命保護に加え、住民財産の保護や地域の経済活動の安定化などを確保するため、一定程度の津波高に対して海岸保全施設等の整備を進めていくことが求められる。
  • 海岸堤防の基本的な考え方のうち、海岸の堤防高については、設計津波の水位等を前提として、環境保全等を総合的に配慮して設定している。ただ、東日本大震災での経験を踏まえ、L2津波を海岸堤防だけで防ぐのには限界があることが分かり、L1津波を対象に海岸堤防の設計を進めている。また、海岸堤防を補強等による粘り強い構造とすることで、L2津波の到達時間の遅延や浸水域や浸水深の減少の効果も期待しており、背後地の被害の軽減対策も実施している。
  • 平成23年12月14日に「津波防災地域づくり法」が公布され、将来起こりうる最大クラスの津波による災害の防止・軽減のため、①基礎調査の実施、②津波浸水想定域の設定、③津波推進計画の作成、津波災害警戒区域等の指定、の順に各地域で対応が進められている。平成29年度中には、40都道府県中35道府県で津波浸水想定区域の設定が見込まれており、津波推進計画の作成や津波災害警戒区域等の指定を今後推進していく。
  • 各種委員会・懇談会にて、津波対策や津波防災地域づくりのあり方等に関する検討が進められている。「土木学会減災アセスメント小委員会」(平成26年10月設置)では、今後巨大地震の発生が想定される地域の津波対策について、社会的公平性や経済的効率性などの観点からの総合的な検討が行われている。また、「津波防災地域づくりと砂浜保全のあり方に関する懇談会」(平成29年9月設置)では、近年の社会・経済動向や海岸管理の現場が抱えている課題を踏まえ、防災(防護)、環境(整備と保全)、利用のあり方、それらを支える技術の展望、政策の方向性について、公開ベースで検討が行われている。
  • L2津波にはどう対処すべきか、どの程度の津波高まで堤防で防ぐべきかについては地域が主体的に考え、取り組んでいくことが重要である。
講演③津波リスクに対する企業等の対応
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 企業財産本部長 佐藤 一郎 氏
佐藤 一郎 氏

講演内容

津波リスクを「知る」、「判断する」、「備える」ことの重要性について説明した上で、津波シミュレーションを用いたリスクの確率的評価手法や避難計画策定支援の例などについてご講演頂きました。
ご講演のポイントは以下の通りです。

  • 伝統的なリスクの定義は、「事象の確からしさ(発生確率)とその結果の組合せ」であった。一方、国際標準規格「ISO31000」では、従来のリスクの定義に加えて、「戦略リスクなどを含めたアップサイドの不確実性を含めたもの」とリスクを定めている。リスクの定義は、失敗した際のダウンサイドだけでなく、成功した際のアップサイドも含めた考えに変化してきている。この考えは経営者にとっては一般的であるが、ダウンサイドリスクが強く意識される防災分野では非常に画期的である。例えば、企業がある事業を行う際に災害のリスクを最小限に抑えることができれば、事業でよりリスクを取りやすくなるためである。
  • 日本学術会議「工学システムに対する社会の安全目標」における企業の役割では、「企業が主体となって判断を行う工学システムに関しては、国等は社会安全の視点から望ましいレベルをガイドラインとして示し、そのガイドラインを参考にして企業が判断をすることが望ましい」とされている。
  • リスクに対応するには「知る」、「判断する」、「備える」という3つのステップに分類されるリスクマネジメントサイクルが重要である。リスクマネジメントサイクルを踏まえ、「経営課題の一つとして、自然災害リスクに向き合うことは経営者の責務」である。
  • 1つ目の「知る」は、国等が発信している情報を自ら確認してリスクを「知る」ことである。内閣府が実施した「自然災害の事業への影響を考える上での情報源、及びその効果」に関するアンケート調査結果によると、活用されている情報源は上位から、「行政等が公開しているハザードマップや被害想定」、「損害保険会社・共済からの情報」、「行政等が公開しているBCP策定支援ツール」の順であった。それぞれの情報源は、利用者の利用目的に応じて様々な方法で活用されていることから、多様な主体による情報提供がなされることが有効であると思われる。
  • 2つ目の「判断する」は、確率論的評価等を用いて、リスクを分析・評価し「判断する」ことである。東京海上日動リスクコンサルティングでは、低頻度巨大損失型自然災害の事業への影響を把握することを目的に、①確率地震モデルを活用し、95万の地震シナリオから確率論的に想定すべき地震シナリオを選定、②選定した地震シナリオに基づく評価対象拠点の予想損害額(物的損害・利益損害等)を評価する、ことでリスクを分析・評価可能な手法を提供可能である。
  • 最後の「備える」は、避難計画等を策定しリスクに「備える」ことである。例えば、「気象庁の津波警報に対応した具体的な津波避難計画を策定したい」というニーズに対しては、想定すべき地震シナリオに基づく津波シミュレーションを実施し、津波シミュレーションに基づく避難計画の策定支援を東京海上日動リスクコンサルティングでは提供可能である。
閉会挨拶
東京海上日動火災保険株式会社 常務執行役員 鹿子木 満

以上