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セミナー

2012年度自然災害リスクセミナー

自然災害研究の最前線
ー安心・安全な社会の構築に向けてー

2011年東日本大震災、同年台風12号・15号、2012年九州北部豪雨など、近年自然災害が頻発し、社会に大きな影響を与えています。本セミナーでは、気象、地震・津波、災害・防災などの分野でご活躍されている専門家をお招きし、気象研究や地震・津波研究の最前線、災害情報の活用などについてご紹介いただきました。

開催日時・会場

  • 日 時
    2013年2月4日(月)13:30〜17:00
  • 会 場
    東京海上日動ビル新館15F
  • 主 催
    東京海上日動、東京海上研究所

講演等の概要

開会挨拶
東京海上ホールディングス株式会社 取締役副社長 玉井 孝明
講演①気候研究の最前線
気象災害の将来変化と気候学の挑戦
東京大学 大気海洋研究所 副所長 教授 木本 昌秀 氏
木本 昌秀 氏

講演内容

海面水温の上昇、大気中の水蒸気の増加、豪雨の増加などの気候・気象変化がすでに起こっています。また、温暖化に伴い、台風の強度が増加する見通しであることなども分かってきています。「今年の台風はどうなるか」といったことを確定的に申し上げることはできませんが、今後気候が変わっていくことを前提にし、対策をとっていく必要があります。
レーダー観測体制の整備や予測技術の高度化などで、以前に比べると多様な気象情報が利用できるようになってきています。一方、気象情報は農業分野、漁業分野や地方自治体など、限られた分野でしか活用されていません。気象庁の出している気候情報を民間に使いやすい形にする、コンシェルジュ機能の必要性・重要性が増しています。
近年の気温変化を見ると、温暖化の傾向が鈍っているように見えます。しかし、海の内部の温度が引き続き上昇しているなど、各種データを総合すると温暖化傾向が継続していることは明白です。今後も温暖化が進むことを前提に、社会全体として各種対策を実施していく必要があります。

講演②地震・津波研究の最前線
想定外のない安全な社会に向けて
東北大学 災害科学国際研究所 副所長 教授 今村 文彦 氏
今村 文彦 氏

講演内容

今回の東日本大震災では、地震・津波についての多くの教訓を得ました。東北沖は、太平洋プレートの沈み込みに伴い、ひずみのエネルギーがたまる場所です。過去も地震・津波が起きており、そのデータに基づいて評価をしておりました。ところが今回は、従来よりも広い範囲のプレートが連動し起きたものです。そのため、例えば仙台では想定の4 – 5倍の範囲に津波が襲来するなど、従来の想定を大きく上回る災害が発生しました。我々は、この反省も踏まえ、南海トラフなどでも最大どれくらいの地震・津波があり得るのか、また津波により被害が生じる基準について、再検討を行っています。
我々の知りうるシナリオをすべて考慮した結果、南海トラフ地震は最大でマグニチュード9の巨大地震になりうること、また地震・液状化・地盤沈下・津波などが連鎖する複数災害に備えた対応が必要なことなどが明らかになりつつあります。
東北大学は2012年度から、東京海上日動との共同研究を開始しました。共同研究の目的は、「震災の経験・知見を踏まえ、国内の津波リスクを具体的に評価すること」「社会の防災・減災を促進すること」です。具体的には、ハザード評価方法・避難シミュレーション手法の開発や、避難訓練企画・効果検証、小学校を主な対象とした「ぼうさい授業」、などを実施しています。
東日本大震災から2年が経過し、我々は多くのことを忘れつつあります。皆様には改めて当時の状況を振り返り、教訓を忘れずに災害に備えてほしいと思います。

講演③豪雨災害と災害情報
ー最近の日本各地での災害事例から学ぶことー
静岡大学 防災総合センター 副センター長 准教授 牛山 素行 氏
牛山 素行 氏

講演内容

自然災害は台風や地震などの自然の外力が、人間社会に作用することで発生します。防災を考える上では、外力と人間社会の相互作用を考える必要があります。
今回の東日本大震災では、各地で痛ましい被害が発生した一方で、避難訓練の徹底などで被害を防げたケースも存在します。同一地域で発生した明治三陸地震津波(1896年)と比較すると、犠牲者の「発生率」は相対的に低い数値となっています。これは、この数十年の様々な取組みが功を奏したもので、今後も防災対策を進めることが重要です。
雨の災害は地震・津波と異なり、毎年のように発生しており、過去の災害のデータが蓄積されています。2004-2011年の雨の犠牲者を分析すると、土砂災害による犠牲者が最も多い(37.2%)ものの、洪水(25.5%)、河川(20.5%)(※)を合わせると、約半数が溺死によるものとわかっています。ただし、溺死といっても、川からあふれた水で家が流されて亡くなった人はごく少数で、ほとんどは車や徒歩で移動中に流されて亡くなった人です。水深が浅くても、乗り物に乗っていても、流れのある水の中を移動することは困難です。流れる水に近づかない、ということが非常に重要です。
ある場所でいつ災害が起きるかはわかりませんが、その場所でどんな災害が起きうるかは、かなりの程度分かるようになってきています。災害の種類によって取るべき避難行動は異なり、地域特性によって警戒すべき災害は異なります。ハザードマップなどを活用して、自分のいる地域についてよく知ることが何より重要です。

※洪水:河川からあふれた洪水による犠牲者
河川:川の中での犠牲者(用水路への転落など)

【参考資料】国土交通省・ハザードマップポータルサイト

講演④地震・津波リスク研究と自然災害リスクコンサルティング
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 常務取締役 庄子 憲義 氏
庄子 憲義 氏

講演内容

東京海上日動リスクコンサルティングでは津波災害について、東北大学・今村教授の研究室と連携して研究を実施しています。また、地震、台風などその他の自然災害についても、独自のリスク評価モデルを構築しており、企業のお客様を中心に自然災害リスクを定量評価し、対策を提案するサービスを実施しております。
東日本大震災以降、お客様の持つリスクを定量評価してほしいというご要望、グローバルリスクや津波リスクなどお客様自身のリスク想定に漏れがあるのではないかというご相談が多く寄せられています。私どもは特に、対策の経済合理性を重視し、被害想定や事前の対策だけでなく、事後の早期復旧サービスも含め、企業の総合的な災害対策をサポートしています。東日本大震災、タイ洪水などでは、ドイツ・ベルフォア社と連携しての早期復旧サービスが特に好評となっています。
私どもは引き続き、諸大学の先生方にお力添えをいただきながら研究を進め、その研究成果をコンサルティングの形で社会に還元します。

閉会挨拶
東京海上日動火災保険株式会社 常務取締役 岩井 幸司

以上