To Be a Good Company

研究員ブログ

TMRI ColumnNo.27

これからの働き方とリーダーシップ

グローバル化がますます進展し、人工知能の性能が人間の知能を超え、様々なものが無料に近い値段で手に入る近未来において、人々の働き方や組織、リーダーシップはどう変わっていくのでしょうか? 東京大学・ソーシャルICTグローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム(GCL)が毎月発行しているニューズレターの連載記事「リーダーズインタビュー」の問いに、私、牧野が答えました。(構成等は一部変更してあります)

グローバル化する社会で活躍するために求められることは?

自分のアイデンティティ、すなわち自分の興味・能力・価値観をしっかり認識し、世界をどう変えたいのかというビジョンを持っていることだと思います。日本人の多くは、会社が望む通りの存在になろうとして自分のアイデンティティを殺してしまい、自分自身のビジョンも持っていません。これだと海外、特にシリコンバレーのようなところでは通用しません。

彼らは「シリコンバレーに何しに来た? オマエは世界をどう変えたいんだ?」という聞き方をよくしますが、「会社の命令で情報収集に来た」なんて言ったら相手にされません。自分は何が好きで、何が得意で、何を重んじているかをはっきりさせ、それによって世の中をどう変えたいんだということを、短く魅力的な言葉で表現できること、これが重要だと思います。

一方で、基本的なツールも必要です。英語はやはり必須ですが、加えて、これからはプログラミングや、人工知能の基礎的な知識も必要だと思います。

牧野さんの「ビジョン」とは?

いろいろあるんですけど(笑)、今のビジョンは「世界からサザエさん症候群をなくしたい」です。世界中でサザエさんが放映されているわけではありませんが、ブルーマンデーという言葉があるので、仕事をつらいもの、生活費を稼ぐために我慢してやるものと考えている人が多いのは世界共通でしょう。SNSでは「ああ、明日からまた会社だ」とか、逆に「やった、金曜日だ。今日一日我慢すれば明日は休み♪」なんていう書き込みをよく見かけますが、仕事ってそんなつらいものなの? それでいいの? って思ってしまいます。

だれもが仕事を楽しく、ワクワクしながらできるような世の中にしたいですね。

だれもが好きなことをしていたら、いやな仕事は誰がやるのですか?

人工知能とロボットが発達すれば、好むと好まざるに関わらず、人間にとってつらい仕事、いやな仕事は彼らが代替するようになります。人間に残されるのは「自分が心から楽しいと思える仕事」だけになるでしょう。例えば自動運転タクシーができればタクシー運転手の多くは失業するかもしれませんが、お客さんと話すのが大好きで、お客さんを喜ばせるために車内にいろいろな工夫をしているような人は、「おもてなしドライバー」のような形で生き残れるのではないでしょうか。

ただし、これまでの学校教育は、子供に「好きなこと、楽しいことをやりなさい」とは教えてこなかったし、企業も社員に、「心から楽しめる仕事をやれ」とは言ってこなかったので、この価値観を変えないといけないと思います。

これから10年後の社会と、そこで求められる人材とは?

何かをするのに必要なリソースはすべてネットワーク上のコミュニティから潤沢に、無料かほぼ無料に近いコストで供給されるようになるでしょう。今でもインターネット、クラウドコンピューティング、クラウドファンディング、クラウドソーシングなどにより、必要なリソースは非常に低いコストで調達できます。そうすると、必ずしも企業に勤める必要はなくなり、自分のスキルや専門領域に合わせて自由に仕事をする「一人会社」のような働き方が増えてくると思います。

そのような時代に活躍出来る人材とは、給料とか地位という外発的動機でなく、「本当にこれをやりたいんだ」という内から沸き上がる内発的動機で動く人ではないでしょうか。

社会的な格差が生まれる可能性は?

ネットワーク社会では1人1人の能力がより鮮明に可視化され、さらに競争相手が全世界に広がるので、稼げる人と稼げない人の格差は広がるでしょう。さらに仕事がどんどん人工知能とロボットに代替されていけば、代替不能なスキルをもつごく一部の高給取りと、ロボットよりさらに安いコストで単純労働をする貧困層に2極分解する可能性もあります。失業者も増えるでしょう。このような時代には、働いて収入を得て生活するというモデルが成り立たなくなります。

収入がなくなったら、どうやって生活するのですか?

今注目されているのが、ユニバーサルベーシックインカム(UBI)制度です。スイスでは昨年国民投票で否決されましたけど、今年からフィンランドで実験が始まっています。

UBIが導入されれば、人々は「生活のためにいやいや行う労働」から解放され、自分が本当に好きなことができるので、創造性・生産性は向上するはずです。万一失敗しても生活は保障されるので、もっと積極的にリスクを取って新しい事に挑戦する人も増えるでしょう。

一方、UBIを支給されたら仕事はせずにぶらぶら遊んでいるよという人も出てくるでしょう。それはそれで構わないのですが、ぶらぶらしているより何倍も楽しいから仕事をする、という人が多ければ、世の中はさらに良くなるはずです。人間、退屈するとろくなことをしませんからね(笑)。そのためにも、今から働き方を変えていく必要があると思います。

牧野さんの考えるリーダー像は?

これまでのリーダー像は、階層的な組織があって、その組織をきちんと運営する人というイメージが強かったと思いますが、これからは、ネットワーク型のコミュニティをゆるくリードする人、というふうに変わっていくと思います。あの人は自分より上の地位にいるから従わなくちゃ、というのではなく、あの人は面白そうだから一緒にやりたいと思われる人がリーダーになるだろうなと思っています。

牧野さんはどんなタイプのリーダーですか?

私はいわゆるリーダーのタイプではありません。強いて言えば参謀型でしょうか。三国志では孔明に、サンダーバード(注)ではブレインズに憧れていました。何も全員がリーダーになる必要もないわけで、自分の特性に合った役割を果たせばいいと思ってます。

(注)サンダーバードは、1965~1966年にイギリスで放送された、国際救助隊の活躍するTV番組。ブレインズはその救助メカを設計する天才エンジニア。

リーダーを目指す人へのメッセージは?

世の中には、「リーダーを目指せ」「リーダーシップを身につけろ」というような強迫観念が蔓延していますが、リーダーになること自体が目的ではありません。なにか実現したいことがあって、そのために人を巻き込む必要が出たときにはリーダーになればいいだけです。魅力的なビジョンを持っていれば、自ずと人は集まって来ます。人にはいろいろなタイプがあるように、リーダーにもいろいろなタイプがあります。固定化されたリーダーシップ論に惑わされず、ありのままの自分を貫いて欲しいと思っています。