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研究員ブログ

TMRI ColumnNo.25

シンギュラリティセミナーでのQ&A

東京海上研究所が2016年11月に開催したセミナー「シンギュラリティは近い~激変するビジネス環境に対応するには」の受講者アンケートには、多くの質問も書かれていました。それに対して講師が回答を作成し、受講者に配ったところ大変好評でしたので、TMRI Columnでも共有したいと思います。 なお、回答はあくまでも講師の私見であり、研究所の公式見解でもなければ、絶対正しいというものでもありませんので予めご了承ください。 なお、セミナーの概要については、東京海上研究所ニュースレター SENSOR No.34「セミナー実施報告「シンギュラリティは近い~激変するビジネス環境に対応するには」」をご参照ください。

Q.1:将来はIT人材としてキャリアを築いていきたいと思っていますが、どのような方向性になるのか知りたいです。

A.1:現在最も不足していると言われているIT人材は、人工知能がわかる技術者でしょう。人工知能を開発する側に回れば、しばらくの間は人工知能に仕事を奪われることもありません。
開発とまではいかなくても、人工知能の特性を理解し、うまく使いこなせるIT人材もひっぱりだこになるでしょう。

Q.2:デジタルな世界とアナログな世界があるとした時、世界が「デジタル」を求めていく中で、最終的に生き抜くことを展望するのであれば、日本は「アナログ」という世界を作りあげていくことが必要なのでしょうか?

A.2:大前提としては、手漉き和紙とか明太子とか、そういうものを除けば全てが「デジタル」になっていくと思います。例えば、テレビも電話も、昔はアナログ信号だったのが、いまはデジタル信号で送っています。針がついている時計も、ごく一部のマニア向け高級腕時計を除けばすべてデジタル制御です。
このようにプラットフォームはすべてデジタルになっていきます。その上で「論理的なもの」で勝負するか「情緒的なもの」で勝負するかは戦略次第でしょう。日本は「情緒的なもの」が強みなので、それを生かすといいと、個人的には思います。

Q.3:嫌なことをやらなくて良い時代になれば、この世からストレスはなくなるのでしょうか?

A.3:ストレスが本当にゼロになってしまうと、人間は生きていけません。適度の緊張感とか、危機感のようなものは必要です。ただし、現代社会はあまりにもストレスが多すぎるので、そこは人工知能やロボットに助けてもらいたいところです。

Q.4:セルフレジに取って代わられたレジ打ちのパートは、より創造性高い業務に転換できるわけではないと思う。シンギュラリティの前後で大きな社会問題になるのか?すでに議論が進んでいるのでしょうか?

A.4:機械に仕事を代替されてしまう人は、より創造性の高い仕事に鞍替えするか、あるいは働かないで暮らすかですね。
前者については教育から変えていかなければいけません。2015年の文部科学省の新指導要領も、人工知能時代を意識した内容になっています。
後者については、エネルギー、住宅、交通、食料などのコストが限りなくゼロに近づけば、働かなくても生活はできるでしょう。現在の資本主義は終わり、衣食住娯楽みんなタダ、という古代ローマ市民のような生活になるのではないかという説もあります。

Q.5:「営業」がAIにとって変わる時代が来るのは何年後だと思われますか?そのとき、「営業」に「人」は必要ですか?

A.5:「営業」をどう定義するかにもよりますが、「自分の事を理解して、自分に最適なものを選び、最も適切な価格で提供してくれる」という機能であれば、資産運用だったら「ロボアドバイザー」が、買い物だったらamazonが既に自動的にやってくれてますよね。一方、「自分はこういう夢を持っているのだが、どう実現したらいいか」というような相談に共感し、親身になって考え、提案してくれるような営業は、AIには代替されにくいと思います。

Q.6:人工知能に取って代わられない仕事は、どのような仕事でしょうか?

A.6:いろいろな本や雑誌に「なくなる仕事、なくならない仕事ベスト○○」というような記事が出ていますが、私は、人が心の底からやりたいと思い、心の底から楽しんでいる仕事というのは、人工知能には代替されないと思っています。なぜなら、人工知能は、自分では「これをやりたい」とか「これは楽しい」「ワクワクする」という感情を持つことができないからです。
人間が心の底から楽しんで提供している商品やサービスは、買う側の人間にも魅力的に映ります。例えば、新幹線の車内販売の仕事が好きで好きで仕方なくて、毎日いろいろな工夫をして、他の人の7倍の売上を上げている名物販売員がいます。こういう人は、ロボットカートには代替されないでしょう?売上もさることながら、その人を目当てに新幹線に乗る人もいるらしいですから。
一方、自分の仕事が特に好きなわけではないが、「今まで一度も遅刻したことがない」「病気で休んだことがない」「仕事上のミスをしたことがない」事だけが自慢な人は、危ないでしょうね。人工知能は遅刻も病欠もせず、ミスも犯さず、人間の何万倍ものスピードで仕事ができますから。

Q.7:激変するビジネス環境で企業が生き残るためには、どうしたらいいでしょうか?

A.7:「生き残る」というのは、あくまでも結果であって、目的ではないと思います。 「生き残りをかけて戦っている」企業を、一消費者として応援したいと思いますか?それより、顧客や社会のために、他の会社にはないユニークな商品・サービスを一生懸命、それも楽しみながら作っているような会社は、「なくなってしまわれては困る」と思いますよね。そういう企業が結果的に生き残るんだと思います。

Q.8:進化した人工知能はやがて自我に目覚め、人間を滅ぼしてしまうのでしょうか?

A.8:「人工知能は危険だから開発を抑制すべきだ」という声は多くあります。スティーブン・ホーキング氏、イーロン・マスク氏、ビル・ゲイツ氏などがその代表格です。
一方、人工知能を専門に研究・開発している人たちは、そうは考えていないようです。彼らは、「自らの意思を持ち、自発的に人類を抹殺しようと考えるようなAIを創ろうとしたら、途方もない時間がかかる。ホーキング氏、マスク氏とも著名な科学者、実業家だが、二人とも人工知能をプログラミングした経験はないからそのような人工知能危険論を説くのではないか」「そもそもそこまで苦労して人工知能に自我を持たせる意味がない。アルファGOに人間のような欲望や喜怒哀楽を持たせたら、人間の棋士に負けてしまうだろう」と言います。またユニークな考えとしては、「他の生物を下に見て、支配したり抹殺したりするという考えは、非常に低次元な人間固有の発想である。進化した人工知能は人間ごときに脅威を感じたりせず、人間を抹消するなどという低次元の発想を持つことはない」という人もいます。
私自身も、人工知能の開発を規制したりせず、人工知能がどこまで行けるのかを見てみたい気がします。もし仮に人類が滅びて人工知能が生き残ったとしても、それはそれで地球の知的生命体が「進化した」ということではないでしょうか?
ちなみに、この話になると必ずと言っていいほど出てくるのが映画「ターミネーター」ですが、シンギュラリティ大学の講義のなかで、共同創業者のピーター・ディアマンディス氏は、「あれは非常に”Poisoning”だ。皆あの映画に毒されて、人工知能に悪いイメージを持ってしまう」「生物は、『危険だ!』という情報により強く反応する。そうでなければ生き残れないからだ。ハリウッドが人類滅亡の映画を好んで作るのも、マスコミが事故やテロ、戦争のニュースを繰り返し流すのも、この本能を利用して人の注意をひこうとするためだ」と言っていました。

いかがでしたでしょうか?冒頭でお断りしたとおり、これらはあくまでも筆者の主観であり、絶対的な正解ではありません。
もし皆さんが同じような質問をされたら、どう答えますか?「正解」を探そうとするのではなく、常に自分の頭で考え、自分なりの意見を持つことが、これからの時代には求められるのでしょう。
正解のある問題の答えを探すだけなら、人工知能のほうがはるかに優秀ですからね。