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セミナー

2015年度自然災害リスクセミナー

自然災害研究の最前線
ー富士山噴火と企業の対応ー

2015年11月4日、東京・大手町にて自然災害リスクセミナー「自然災害研究の最前線ー富士山噴火と企業の対応ー」を開催しました。最近、日本列島で火山活動が活発化しているように感じられることから本セミナーにも高い関心をお寄せいただき、予定を大きく上回る約300名の方々の参加を得て、大変盛況なセミナーとなりました。以下では、各講演の概要についてご紹介します。

開催日時・会場

会場の様子

会場の様子

  • 日 時
    2015年11月4日(水)13:30〜17:00
  • 会 場
    大手町サンケイプラザ3階会議室
  • 主 催
    東京海上日動、東京海上研究所

講演等の概要

開会挨拶
東京海上日動火災保険株式会社 取締役社長 永野 毅
基調講演富士山の噴火史と災害予測
-現状と課題-
静岡大学 教育学部 教授
防災総合センター 副センター長 小山 真人 氏
小山 真人 氏

講演内容

富士山のハザードマップ作成に携わった当事者として、過去の噴火の歴史や、噴火した場合にどのような現象が発生するのかを中心に、噴火の全体像について映像を交えて分かりやすく解説いただきました。
その上で、現在のハザードマップ作成以降に新たな歴史的事実(歴史上の最大噴火規模が想定よりかなり大きかったなど)が判明しハザードマップの見直しが必要となっていることや、メディア・報道などが必ずしも正確な情報を流すとは限らず、社会が過剰反応している面があることなど、われわれが認識を改めなければならないと思われる点をご指摘いただきました。
講演のポイントは以下の通りです。

  • 日本列島の火山が活動期に入ったのではないかという報道が多いが、実際はあまり変わっていない。御嶽山の噴火で噴火警戒レベル1にもかかわらず犠牲者を出してしまったため、その後、気象庁、マスコミが敏感になり、何か異常があると、頻繁に噴火警戒レベルを引きあげたり、報道したりすることから、最近、火山活動が活発に見えている。歴史的にみるとまだ静かな時期が続いているが、いつ活発になるかはわからない。
  • 宝永噴火が現代の梅雨期に起きると、15年前の推計では被害総額は2兆5000億円にのぼる。
  • 地震が起こると、マグマだまりに力学的な影響を及ぼすが、必ずしも噴火を促進するとは言えない。逆に、噴火が先延ばしになったケースもある。
  • 山ごとに噴火の特徴が異なるため、登山者対策は山ごとに考える必要がある。富士山は御嶽山で発生したような水蒸気噴火が起こる可能性は殆ど無く、マグマが上ってきて噴火するというケースがほとんど。そのため、予兆が噴火直前となることが考えられ、登山者に対して情報が間に合わないことが考えられる。
  • 富士山は小規模の噴火がほとんどなので、地元住民への影響は無いものの、登山者には危険であるというケースが想定される。
  • 山梨県では避難路マップを作成。噴火の状況に応じた、4つの避難パターンを作成した。
  • 最近になって、新しい火口が富士吉田市街地に見つかったことで、山梨県のハザードマップの大幅な改定が必要となった。
<富士山噴火に遭遇したときの対応は以下の通り>
①火口や噴火場所を周囲の状況を見て把握する。
②場所が分かったら、出来るだけ火口から離れる。
③その際、火口の下流方向には近づかない。
④場合によっては、登山道から離れて待機したり、別の登山道を目指してもよい。
⑤風が強い場合には、小さな噴石や火山灰を避けるために、風下方向へ近づかないようにする。
⑥地形が分かる地図があれば、火口の場所、周囲の状況、逃げられる方向について地図から判断する。
<富士山噴火についてのよくある誤解>
①富士山噴火は予知できる。
⇒小中規模の噴火では一般的に困難だし、富士山のような玄武岩質マグマの移動は早く、前兆発生から噴火まで間が無いので情報周知が難しい。前兆があっても噴火しなかった例も。
②次の噴火も宝永噴火のような大規模・爆発的噴火になって大量の火山灰が降る。
⇒宝永噴火のような噴火は富士山では珍しい。むしろ中小規模の噴火が圧倒的に多く、宝永噴火では起きなかった致命的現象=火砕流・融雪型火山泥流(小規模噴火でも発生)を警戒すべき
③火山灰は恐い。
⇒降ってくる火山灰は物流やライフラインを停めるが、直接命にかかわる現象ではないし、富士山で大量の火山灰を放出する噴火はまれである。呼吸器疾患が無ければ通常のマスクで十分。むしろ降灰後の土石流を警戒すべき。
④大きな噴石がふもとまで飛ぶ。
⇒大きな噴石は火口から4kmしか飛ばない。むしろ風に舞って数10km離れた場所に高速で落下する小さな噴石に注意(屋内退避とヘルメット要)
⑤溶岩流は恐い
⇒溶岩流の速度は遅いので徒歩でも避難可能
⑥ふもとの異常湧水は噴火の前兆
⇒雨が多い年に湧水量も増加。噴火は関係ない。
⑦富士山にシェルターが必要
⇒山腹を含む広い範囲のどこで噴火するか不明のためシェルターの優先度は低い。他の対策の充実が先決。
講演①富士山噴火への社会的対応
静岡大学 防災総合センター 教授 岩田 孝仁 氏
岩田 孝仁 氏

講演内容

岩田先生は昨年度まで静岡県庁に在籍され、直近では県の危機管理監兼危機管理部長として、噴火や地震・津波などへの対策の陣頭指揮を執られていました。長年、防災行政に携わってこられた経験に基づき、われわれが噴火に対しどう対応すべきかについて講演頂きました。甚大災害を経験しても、30年ほどで記憶が薄れてしまうことを、1989年にご自身が経験された「東伊豆単性火山群(伊豆東部火山群)」への対応を引き合いにお話いただいたほか、噴火の被害を受ける企業に対しては、直接的な被害に加え、間接的な被害(短期的・中長期的)を想定するという視点の重要性や、有事の際に組織・従業員個人が各々どう対処すべきかを検討しておかなければならないという有益な指摘をいただきました。
講演のポイントは以下の通りです。

  • 発災後8年間は、災害は大きな関心事、15年で被災世帯の40%は危険とは思わなくなり、甚大で広範な災害でも、災害の記憶は30~40年で薄れ、100年間隔の災害では忘れられてしまう。
  • 災害対策基本法では、住民の避難は各市町村長が避難指示を行うことになっているが、専門家でない首長が避難すべきか判断することは困難である。そのため、共通の判断基準として、2007年に噴火警戒レベルが導入された。2015年10月時点で、気象庁が監視を行っている全国47火山の内、32火山で導入されている。
  • 富士山噴火への対応が特殊な要因として、3県にまたがっているため関係者が多く、また、富士山の周辺には多くの人が住み、いくつもの基幹産業を抱えていることから、噴火すれば直接的な影響が広範囲に及ぶことが挙げられる。
  • 企業の災害への対応としては、「直接的影響に対する備え」「間接的影響に対する備え」「災害直後の影響」「中長期的な影響」という観点で整理をするべき。
  • 1995年の阪神淡路大震災後、現在に至るまで、兵庫県の経済は地元の企業が復活出来ず、大きく落ち込み続けている。企業が災害に対する対応力を持つことで、災害後の経済復興のスピードを速めることができるのではないか。
講演②富士山噴火防災の取り組みについて
トヨタ自動車株式会社 東富士研究所管理部 部長 高橋 恭弘 氏
高橋 恭弘 氏

講演内容

トヨタ自動車・東富士研究所は富士山山頂からわずか20kmの距離にある静岡県裾野市に位置し、200万㎡という広大な敷地を擁していることから、富士山が噴火した場合に大きな影響を受けることが予想されます。これまでの人事労務管理や事業所管理の豊富な経験を活かし、東富士研究所の噴火への対策を検討されていることから、「富士山噴火防災の取り組みについて」と題し、企業の立場から富士山噴火にどう対処するかについてご講演を頂きました。トヨタならではの「現地現物主義」を実践された鹿児島(桜島)や長崎(普賢岳)などでの数度の噴火被災地調査の内容や、東富士研究所の噴火対策の検討状況を、映像を交えて具体的かつ現実的な対策とともに紹介いただきました。
また、同社から提供いただいた「火山灰の実物」や「噴火対策グッズ」を展示するコーナーを設け、参加者から好評を得ました。

※機密保持の観点から、講演②の詳細につきましては掲載しておりませんのでご了承ください。

閉会挨拶
東京海上日動火災保険株式会社 専務取締役 岩崎 賢二

以上