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セミナー

2009年度地球温暖化セミナー

低炭素社会に向けた企業戦略・グリーンビジネス
~企業が動けば社会が動く~

2010年2月12日、東京海上日動、東京海上研究所主催、朝日新聞社後援による掲記セミナーを開催し、企業のお客様を中心とする幅広い多数の方々に参加いただきました。セミナーでは、2009年12月にコペンハーゲンで開催されたCOP15(国連気候変動枠組条約第15回締約国会議)における議論も踏まえ、学識者、企業、マスコミ等、各方面の第一線の方々をお招きして、地球温暖化や気候変動問題に関する最新情報や低炭素社会に向けた企業戦略等を語っていただきました。また、パネルディスカッションを通じて、低炭素社会における企業経営や企業への期待等について様々な角度から考え、活発な意見交換を行いました。開会にあたり、東京海上日動 取締役社長 隅 修三が「低炭素社会の実現は現代社会における最重要課題の一つであり、企業もCO2排出削減に向けた取り組みを従来以上に真剣に検討する必要がある。」とご挨拶申し上げました。

開催日時・会場

会場の様子

会場の様子

  • 日 時
    2010年2月12日(金)13:30〜17:15
  • 会 場
    東京海上日動ビル新館15F
  • 主 催
    東京海上日動、東京海上研究所
  • 後 援
    朝日新聞社

講演等の概要

開会挨拶
東京海上日動火災保険株式会社 取締役社長 隅 修三
隅 修三
講演①地球温暖化の現状および温暖化予測の最前線
東京大学 気候システム研究センター センター長 教授 中島 映至 氏
中島 映至 氏

講演内容

NASAによると、2009年は観測史上、2番目に暖かい年であった。CO2の増加は止まっていない。地球気候の変化には様々なメカニズムがあり、微妙なバランスの上に成り立っている。衛星データから、人間の活動量が地球の自然現象の中から飛び出して見えるのがわかるが、人間活動の影響は全球に及ぶ。人間活動に伴うCO2や大気汚染物質などの増加が地球温暖化を引き起こしている。引き起こされた温暖化は自然起源のものに比べて数十倍の速度で進んでいる。
現在は、温暖化を証明する時代からアセスメント(評価)の時代に入っている。学術界は可能なデータやメニューを提供する。政策者はこれらを利用し、低炭素社会の構築に向けて取り組んでいる。企業は、これらを活用し、新たなビジネスの創成を行っていただきたい。企業、社会、政治リーダー、施策者、学術界など、社会の各セクターが連携して低炭素社会の構築に取り組んで欲しい。

講演②トヨタの環境経営
~エネルギー・環境問題への対応~
トヨタ自動車株式会社 CSR・環境部長 田島 英彦 氏
田島 英彦 氏

講演内容

地球温暖化問題への取り組みが低炭素社会の実現には重要であり、世界のCO2排出量の23%を占める運輸の果たすべき役割が大きい。トヨタは創業以来の理念である “自動車を通じた豊かな社会づくり” に基づき、様々な環境取り組みを展開している。
地球温暖化への対応として、開発・設計では、“省石油/脱石油” の観点から、HV車の導入を含む燃費の向上、代替燃料の導入等、積極的に取り組んでおり、トヨタは2008年度の平均燃費を1993年比37%改善した。
運輸のCO2排出量を効果的に削減させるには、自動車メーカーだけではなく、燃料メーカー(バイオ燃料等、燃料の多様化)、行政(交通流改善、エコカー購入インセンティブ導入)、ユーザー(エコドライブ)を含めた統合的な対応が重要である。日本では、この統合的対策により運輸のCO2排出量が2001年にピークアウトした。
環境に優れた車を、環境に優れた工場で生産し、できるだけ環境に負荷をかけずにお客様にお届けすることをこころがけている。例えば、工場では、革新技術と弛まぬ改善によるCO2削減の取り組みを日常的に進めている。その結果、トヨタの工場では、2008年度のCO2総量を1990年比37%、原単位(t/売上高)を同年比50%削減した。
また、物流分野では、総走行距離の低減、CO2排出量の少ない輸送手段へのシフト等、完成車、生産部品の輸送におけるCO2削減を実施している。
更に、限られた地球の資源を大切に使うためには、資源循環の取り組みが重要で、ビジネスパートナーと連携し、使用済み自動車のリサイクル率の向上を推進しており、トヨタの日本におけるリサイクル実効率は97%である。
トヨタはこの様な活動を世界の586の環境連結会社と連携し、グローバルに展開している。

講演③持続可能な社会を目指して
~日本企業への期待~
有限会社イーズ 代表 枝廣 淳子 氏
枝廣 淳子 氏

講演内容

現在、モノを買わない消費者、心の豊かさの方が大事だと考える消費者が増えている。「暮らしの脱所有化」、「幸せの脱物質化」、「人生の脱貨幣化」と呼んでいるが、こうした人たちは増えると思っている。
現代は人々の価値観が大きく転換しており、企業にとって、既存のビジネスモデルは成立しない。企業は社会が必要とする限りにおいて存続できるものであり、時代とともに変わっていく社会が必要とするものや、新たなビジネスモデルに対応できる企業でないと生き残れない。
温暖化対策、CO2排出量25%削減などはあくまでも手段であり、最終目標は持続可能な社会の実現である。どういう日本にしていきたいのか、長期的なビジョンで考え、大幅な省エネとエネルギー転換や街づくりに取り組み、日本の方向性を見極めることが大切だ。政治・産業界は、真のビジョン、実現のためのしくみ、費用対効果を明確にしたコスト負担の議論などを示していくことが必要だ。
今後、企業が市場が望むものを創っていくためには、最初からNGOや市民などと共に創り上げていく共創型のコミュニケーションやマルチステークホールダーを通じた手法なども必要となってくるだろう。

パネルディスカッション低炭素社会に向けた企業戦略・グリーンビジネス
~企業が動けば社会が動く~
社会を変える低炭素経営・グリーンビジネス最前線
モデレーター
村木 満東京海上日動火災保険株式会社 経営企画部 部長
パネリスト
枝廣 淳子 氏有限会社イーズ 代表
近藤 洋介 氏経済産業大臣政務官 衆議院議員
中島 映至 氏東京大学 気候システム研究センター センター長 教授
安井 孝之 氏朝日新聞社 編集委員兼論説委員
パネルディスカッションの様子

低炭素社会の構築に向けた企業に対する専門的知見の提供および企業への期待等について

a. 政策決定者の視点~経済産業大臣政務官 衆議院議員 近藤 洋介 氏
  • 日本の成長戦略には、環境分野のグリーンイノベーションと健康分野のライフイノベーションの2つのエンジンが欠かせない。環境分野約50兆円、健康分野約45兆円、観光分野で約10兆円弱と、これらで約100兆円の需要を創出する。ヒト・モノ・カネ・技術をこれらの分野に流し、日本における街づくりや、日本の先端技術が世界で勝負できるためのバックアップや仕組みづくり等の戦略を進めている。企業等とも意見交換をしながら制度設計を行っていきたい。
  • 急速に進む日本の高齢化社会を支えるために、企業には競争して儲けてもらい、経済成長を支えてもらいたい。競争して頑張っている企業経営を支えるための環境づくりが政治の役割だと思っている。今後の民主党政権に問われるのは実行力。様々な意見を反映させて実行していきたい。
b. マスコミ・報道の視点~朝日新聞社 編集委員兼論説委員 安井 孝之 氏
  • 企業を地球の中の一つの存在と捉え、環境に対するコスト負担を「地球で生きていくために必要なこと」と考えることが重要ではないか。初代プリウスが当初の予想をかなり上回る販売実績となった事例が示すように、消費者の意識の方が企業より先に行っている場合もある。
  • 経済成長と環境問題の両立を克服するのは技術であることは論を待たないが、ともすれば一つの技術に偏りすぎる傾向も懸念される。例えば、多くの企業が取り組み始めている最近の電気自動車ブームについても、各企業にとって現在本当に取り組むべき技術なのかどうか良く検討した方がよいだろう。
  • 日本の鉄鋼業界の中には、大規模なCO2削減で世界に貢献できる技術を持った企業がある。こうした可能性にもっと注目すべきである。
  • 企業はチャレンジし続けないと、環境に対するコスト負担が払いきれないほどますます高くなって行く。こうした認識のもとに、どんどんチャレンジしていってほしい。また、マスコミも、企業と同じ地球の中の社会的存在であり、社会において共に良くなっていくという関係を築いていかなければならないと改めて認識している。
c. 科学者の視点~東京大学 気候システム研究センター センター長 教授 中島 映至 氏
  • 現在は温暖化を議論する時代は過ぎ、評価する時代。政策者や企業等は冷静になってよく勉強してほしい。「知は力」である。人に惑わされず、自分で考え知識を身に付けることが大切だ。
  • 価値の転換が起こっていると感じており、企業にはそれを是非利益につなげてもらいたい。知識を身につけ、人に惑わされない自分の信念を持ち、われわれ日本人は独自性と協調性をあわせもって頑張っていきたい。
d. NPO・消費者の視点~イーズ 代表 枝廣 淳子 氏
  • 企業と消費者が思いを正しく伝える相互作用を果たすためには、都合の悪いことも隠さずきちんと説明するコミュニケーション能力が求められる。消費者の意識の方が先に行っている場合もあるが、企業がせっかく良い商品を出しても消費者がついてこない場合もある。どこにターゲットを置くかといったセグメンテーションや企業と消費者が共に創り出していくといった視点も必要だろう。
  • 成長戦略については、経済規模の成長だけでなく、そもそも何を成長させるのか、といった観点が重要だ。成長を否定するのではなく、成長が目的化することを懸念しているということを伝えたい。
  • 最近の消費者は新聞を取らない人も多く、インターネットなど情報ソースは多様化している。そうした中、企業もどのような伝え方をすれば良いのかを考えなければならない。
  • 消費者には未だ環境に対する意識が高くない人たちが多い中、企業が良いものを作ったときに、そうした消費者にも価値が判断できるよう、教育や啓発も含めた企業の努力をお願いしたい。

以上