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セミナー

2008年度地球温暖化セミナー

気候変動に対する金融・保険の役割

2008年11月18日、東京・六本木ヒルズで、朝日新聞社、東京海上日動、東京海上研究所主催、国連環境計画・金融イニシアティブ共催の掲記セミナーを開催しました。 気候変動や地球温暖化問題への関心が世界的に高まる中、本セミナーは、「気候変動に対する金融・保険の役割」をテーマに開催し、国内外の学識者、企業関係者やマスコミ等、各方面の専門家の方々から多様な視点で講演をいただくとともに、パネルディスカッションも実施しました。また、同時に朝日新聞社が地球異変写真展、東京海上日動がマングローブのパネル展示を行いました。 開会にあたり東京海上日動社長隅修三が「気候変動や地球温暖化問題は経営に関わる重要課題である。当社は安心と安全を提供する保険会社として、また企業市民の一人として地球温暖化の防止・軽減に向けて海外の保険会社との連携も含めて積極的に役割を果たしていきたい」とご挨拶申し上げ、セミナーの最後には、 東京海上日動常務取締役永野毅が「損害保険会社として、保険商品やサービスの提供といった本業の部分で、地球温暖化に対応した責任・役割を果たしていきたい」と締めくくり閉会となりました。

開催日時・会場

開会挨拶

開会挨拶

  • 日 時
    2008年11月18日(火)13:30~17:15
  • 会 場
    六本木ヒルズ森タワー49F タワーホール
  • 主 催
    朝日新聞社、東京海上日動、東京海上研究所
  • 共 催
    国連環境計画・金融イニシアティブ

講演等の概要

開会挨拶
東京海上日動火災保険株式会社 取締役社長 隅 修三
講演①気候変動とその人間社会への影響~科学の視点から
東京大学 気候システム研究センター センター長 教授 中島 映至 氏

講演内容

科学は、人間活動に伴うCO2や大気汚染物質などの増加が地球温暖化等の気候変動を引き起していることをほぼ明らかにした。その意味で地球温暖化の証明の時代は終わった。これからは雲、降水及び雪氷過程等をより高い精度でシミュレーションできるモデルを開発する必要がある。このようなモデルを、社会に大きな影響を与える集中豪雨、渇水及び台風などの自然現象がもたらす被害の評価や社会基盤設計に応用してゆくことが有効である。
同時に、地球温暖化の影響を緩和するために低炭素社会への移行が求められている。この問題は、政治リーダー、社会(パブリック)、企業、施策者及び学術界、全員で考える必要がある。学術界は知識を提供し、その知識をもとに政治リーダーが旗を振り、社会のマインドを変化させ、企業から環境負荷の低い商品・サービスを購入するというプロセスを社会システムとして整備する。この循環をドライブさせる必要がある。
そのためには産学の連携は非常に重要である。学術界はモデルを提供するので、企業はそのモデルの有効性を見極め・利用し、新たなビジネスの創成を行っていただきたい。

講演②低炭素経済実現に向けた企業のパラダイムシフト~取材活動で見えてきたこと
朝日新聞社 編集委員 小森 敦司 氏

講演内容

地球資源の有限性と気候変動問題への対応に直面し、資源多消費・炭素多排出型から資源循環・炭素低排出型の事業活動への転換が企業には不可欠となってきています。その一方で、循環型社会・低炭素社会への流れは新たなビジネスチャンスをも開こうとしています。具体例として、太陽電池産業の成長がそれを示しています。
地球という生態系の中で人間の経済規模が小さかった時代から、経済規模が拡大し地球の生態系の枠を超えつつある時代だと認識しなければなりません。企業にはパラダイムシフトが求められているのです。
この経済規模の拡大をこれまで支えてきたのが金融でした。金融は経済活動の血流によくたとえられますが、今後はこの与えられた地球という生態系の中でどう資金を循環させていくのか、どう産業・企業を支えていくのか、金融にも新しいパラダイムシフトが求められているのです。

講演③気候変動に対する金融・保険の役割~適応策を中心に
国連環境計画・金融イニシアティブ ヘッド ポール・クレメンツ・ハント 氏

講演内容

国連環境計画・金融イニシアティブは、177の世界各地の金融機関とのパートナーシップであり、気候変動枠組条約締約国会議(COP)の場でも政策決定者に対して政策提言を行っている。
2007年12月にバリ島で開催された気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)で、2013年以降の次期枠組みの交渉期限(2009年のCOP15)と骨子を定めたバリ行動計画が採択された。その中で従来気候変動対応は緩和が中心であったが、緩和同様に適応の重要性が示された。適応分野において保険は重要な役割を果たすことが期待されている。2009年のCOP15の合意に向けて保険業界は政策決定者に対して情報発信を行っていかなければならない。
世界的な金融危機は金融や保険業界に影響を与えているが、気候変動問題に対応していくという考え方は変わらない。賢明なビジネスリーダーは低炭素社会への移行を脅威やコスト負担の増加とは捉えておらず、新しい技術の導入に向けたビジネスチャンスと考えている。
最後に、東京海上日動がマングローブ植林事業を100年間継続していくとの発言があったが、こうしたビジョンの表明とそれを実現していくリーダーシップこそが必要となる。

講演④日本企業のための排出権取得ビジネスの現状と今後の可能性、気候変動と金融の役割
日本カーボンファイナンス株式会社 代表取締役社長 福井 宏一郎 氏

講演内容

<排出権ビジネスの現状>
排出権ビジネスは、世界的にはマーケットとして先行したEU-ETS(EU域内排出権取引制度)が市場取引の大部分を占め、次いで京都クレジットのCDM(クリーン開発メカニズム)も順調に成長を続けてきたが、今なお試行錯誤の段階にある。CDMが種々のボトルネックからその需給がタイトになる一方で、強大な潜在力を持つ東欧・旧ソ連圏のAAUがGIS(グリーン投資スキーム)の形で漸く動き出し始めた。
<気候変動に対する金融の役割>
気候変動に対して、金融は主に緩和措置の分野でその役割を果たす。気候変動の影響を緩和するための手法は、規制、税金、課徴金、排出権取引、金融手段、研究開発など様々だが、いずれも利点と欠点がある。緩和措置の有力な手段である炭素税と排出権取引のどちらを取るかについて、世界の潮流は世界的な排出権取引市場を前提とした排出権取引に向かっている。排出権取引制度については、排出枠割当の公平性をめぐる問題点が指摘されている。先行するEUの取引制度でも、低炭素技術を導く効果よりも代替燃料という技術的選択をもたらす面が強く出ている。金融の役割を通じて、個々の企業の投資行動を低炭素技術研究開発と低炭素投資に誘導していくことが必要だ。日本では政策投資銀行が世界で初めて環境格付け融資を導入した。こうした環境問題に着目した融資条件制度の中で気候変動対応の比重を高めていくことも1つの方向と考える。
講演⑤気候変動への対応~自然災害リスクに係わる保険の役割
東京海上研究所 常務取締役 主席研究員 三吉 輝正
講演の様子

講演の様子

講演内容

リスクの引受を行っている保険会社にとって、客観的・科学的にリスク評価を行い、最悪のリスクシナリオが何かを把握しておくことが最も重要。保険会社は統計をベースにリスク評価を行っているが過去から帰納的に将来を見る手法では気候変動による気象災害のリスク変化(増大)に対処できない。米国のハリケーンカトリーナは最悪のリスクシナリオを見誤り、安定的な保険カバーの提供に支障をきたした事例であり、それを教訓としなければならない。
東京海上グループは、世界トップ水準の気候モデルを持つ東京大学気候システム研究センターと共同研究を行い、その知見をベースに自社のリスク評価モデルを開発し、将来のリスクシナリオを研究するという取組みを開始している。
途上国、中でもアジアは気象災害リスクが最大の地域。経済的にも弱く、人的被害も受けやすく、社会インフラ、保険制度も十分に整備されていない。こういった途上国に対して保険業界としてサポートしていきたい。但し、そのためには防災インフラと保険の役割分担が必要で、官民の連携が非常に重要。また一社だけでは資本力に限界があるので、海外の保険会社との連携も必要。現在、国内外の保険会社が会員となっているジュネーブ協会という組織で議論を開始している。
東京海上グループは、インドで農家を対象とした天候保険の引受けを行っている。こういった農業保険が途上国支援の一例として考えられる。また、気候変動問題の解決には途上国への技術移転が鍵を握る。優れた環境技術を持つ日本のメーカーには、途上国でのCDMプロジェクトに積極的に参画していただくことを期待する。東京海上グループもCDM関連リスクの保険引受を通じて日本のメーカーの途上国への技術移転プロジェクトをサポートしていきたい。

パネルディスカッション気候変動に対する金融・保険の役割
モデレーター
ピーター D・ピーダーセン 氏株式会社イースクエア 代表取締役社長
パネリスト
中島 映至 氏東京大学 気候システム研究センター センター長 教授
小森 敦司 氏朝日新聞社 編集委員
福井 宏一郎 氏日本カーボンファイナンス株式会社 代表取締役社長
三吉 輝正東京海上研究所 常務取締役 主席研究員
パネルディスカッションの様子

講演内容

気候変動への対応として「日本において何が出来るのか」、「先進国として途上国に対して何が出来るのか」という2つのテーマでパネルディスカッションを行い、会場からの意見も交えながら、活発な議論が展開されました。そして最後に、モデレーターの㈱イースクエア ピーター D・ピーダーセン社長の総括でディスカッションを締めくくりました。

①主な意見(抜粋)

テーマ1:「日本において何が出来るのか」
ピーダーセン氏:
世界的には排出権取引市場、再生可能エネルギー市場ともに市場規模は拡大傾向にあります。日本でもこのグリーンインベストメントの流れが主流になっていくのでしょうか。またその中で、金融はどのような役割を果たすことが出来るのでしょうか。
福井氏:
京都議定書が発効すれば、日本の優れた技術がもっと途上国へ移転されCO2排出量も減ると期待していましたが、種々の問題があり思うようにいっていません。原因は色々ありますが、これから少しずつ整理されていくと思います。日本はこういった経験を活かしながら継続的に途上国へ低炭素社会の実現に向けた投資を行っていかなければいけません。
本当に優れた省エネ技術や新技術が適用されていくよう、金融はその役割を果たしていかなければいけません。
ピーダーセン氏:
気候変動によって今後起こり得るリスクに対して保険会社はどのような視点で行動していくのですか。
三吉:
保険会社はリスクの引受が仕事です。古来、日本は自然災害に非常にさらされ、知識・経験を積み重ね適応してきました。気候変動によって自然災害リスクがどう変化していくのか、これをしっかりと把握していくことが最も大事な視点と考えています。
テーマ2:「先進国として途上国に対して何が出来るのか」
ピーダーセン氏:
社会インフラが脆弱な地域で気候変動の影響が顕在化しやすいと考えてよいでしょうか。
中島氏:
この問題は人口問題です。やはり人口が多いことが温暖化を作り出し、同時に人口の多い地域が気候変動の影響に対して脆弱です。この問題の緩和と適応のための新しい技術革新を行い、雇用を創出し、それで経済をドライブさせていかなければいけません。そういう意味で温暖化の緩和にはやはり経済メカニズムが重要です。
ピーダーセン氏:
途上国には、気候変動に伴う影響による様々なリスクがある中で、一企業だけでそのリスクを引受けていくことは可能なのでしょうか。
三吉:
1日2ドル以下で生活をしている人の数は世界で26億人、1ドル以下では12億人、その多くがアジアに住んでいます。その方たちの生活補償という意味で、ロットが小さなリスクを小さいコストで引受けるスキームを作れたらよいと考えます。また農業国的あるいは軽工業国的な発展段階の国が多いので、農業被害に対するカバーが1つの大きなポイントではないかと、これが方向感です。
一方で、気象災害は非常に大きな打撃力を持ったリスク。一民間会社では資本力に限界があり、官民の役割分担が必要です。保険設計に当たっては気象データが非常に重要になります。データ整備が不十分な国ではその国の気象庁の関与と気象データインフラの整備を図らなければいけません。
ピーダーセン氏:
日本は地球貢献国家というパラダイムシフトをリードしていけるのでしょうか。
小森氏:
日本企業がバブルから立ち直り、ここ数年好業績を続けてきたのは、途上国の経済成長を取り込んだことが重要な点だったと思います。日本を引っ張る企業の皆様にはその責任を考えてもらいたいと思います。また世界でトップの省エネ技術を持つ日本企業には、取引先に環境対応を求め、一定の義務を課すなどの取組みを期待しています。

②モデレーター総括

ピーダーセン氏:
金融に関しては最近暗い話ばかりが報じられていますが、その先には明るい未来があるのではないかと思います。昨年、元米国大統領のビル・クリントン氏が「かつてITが米国経済を引っ張っていったように、これからは気候変動対策、新エネルギー、クリーンな技術が経済発展のテーマになっていく」と発言されました。グリーン投資と持続可能な投資が今後世界の大潮流になります。そこに大きな希望を託したいと思います。
保険の役割は多岐に亘ります。緩和策と適応策、この両方に保険の役割があります。今後保険業界だけでは対処が出来ないような自然災害が発生する可能性もあります。そのために社会として保険の持続可能性を維持するためにどうするかを考えなければいけません。同時に保険業界として社会に対し声を大にして、あるべき制度について提言をしてもらいたいと思います。
閉会挨拶
東京海上日動火災保険株式会社 常務取締役 永野 毅

以上