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研究員ブログ

TMRI ColumnNo.30

2019年度日本気象学会秋季大会で研究成果を発表しました

東京海上研究所では、自然災害リスク関連の研究成果について、各種の学会で定期的に発表を行っています。10月28日~31日に福岡国際会議場で開催された日本気象学会秋季大会において、弊社としては過去最多の3名の研究員が研究発表を行うとともに、第一線の研究者との活発な議論を行いましたので、概要をご紹介します。

大規模アンサンブル実験結果を用いた台風季節予報の可能性調査(片山主任研究員)

片山主任研究員の発表の様子

片山主任研究員の発表の様子

片山主任研究員は、日本への台風接近数や台風活動度といった、その年の台風傾向の事前予測、いわゆる「台風季節予報」の可能性に関する研究について、口頭発表を行いました[1]
d4PDF[2]過去実験アンサンブル平均の台風接近数とACE[3]を算出し、実際の台風と年々変動を比較したところ、両者には有意な相関があり、大気モデルを用いた潜在的な季節予報可能性があることが分かりました。
また、接近数が多い年には、d4PDF、観測ともに「エルニーニョもどき」類似の中部太平洋の海面水温の昇温や、低緯度での西風偏差などの東西の大気循環偏差が見られました。それらが日本に接近しやすい太平洋の南東領域での台風発生を促し、その台風が指向流に乗って接近することが、接近数が多くなる要因と考えられ、台風季節予報の実施に向けて着目すべきポイントと考えられます。
今後は、この結果も踏まえて、独自の台風モデルを用いた台風季節予報の研究を進めていきます。

d4PDFを使用したベトナムRed Riverの流量極値に寄与する極端降水をもたらす気象環境場の考察(加藤主任研究員)

加藤主任研究員の発表の様子

加藤主任研究員の発表の様子

加藤主任研究員は、ベトナム・Red Riverの洪水リスクの研究について、ポスター発表を行いました[4]
ベトナム・Red Riverを対象に、d4PDFを使用して、大規模洪水をもたらす極端降水が発生する気象環境場を調べた結果、将来気候下での大規模洪水をもたらす極端降水発生時の大気では、湿潤大気における不安定度(対流不安定度、条件付不安定度、潜在不安定度)が増すことが確認されました。このような大気場において、鉛直積算された水蒸気フラックスの収束がより大きくなることで、より激しい降水がもたらされたと考えられます。
今後は、他の海外河川について河川流出モデル構築等の研究を進めていきます。

2019年度気象学会秋季大会発表用ポスター(Red River)

d4PDF(2度上昇)を使用した将来気候下における荒川流域での洪水リスクの確率論的評価(篠原主任研究員)

篠原主任研究員の発表の様子

篠原主任研究員の発表の様子

篠原主任研究員は、荒川流域の洪水リスク評価について、ポスター発表を行いました[5]
2017年度秋季大会でd4PDFの4度上昇実験結果を活用した結果を報告しましたが、今回は新たに2度上昇実験結果を用いたリスク評価を行って、過去実験、4度上昇実験を用いた結果と比較することで、将来変化を推定しました。
その結果、荒川流域における経済的被害額は、再現期間1,000年相当で、過去実験と2度上昇実験の比較で約1.3倍、2度上昇実験と4度上昇実験の比較では約1.1倍増加することが分かりました。
この原因に関して、引き続き気象学的な見地から研究を進めていきます。

2019年度気象学会秋季大会発表用ポスター(荒川)

他研究者の講演

昨年、豪雨による甚大な被害をもたらした平成30年7月豪雨に関する研究が多く見られました。これまでの研究を通じて、地球温暖化が降水量の増大に寄与したとの見方が有力となっている印象です。
また、昨年の学会に続き、専門分科会「人工知能(AI)は気象学にブレイクスルーをもたらすか?」のセッションが設けられました。これまでは試行的な研究が多い印象でしたが、豪雨の局所的な発達や微気象のリアルタイム予測への具体的な活用など、実際に活用しうるような実践的な研究が増えている印象を受けました。

おわりに

東京海上研究所は、自然災害リスクに関する研究に継続的に取り組んでおり、社会に向けて研究成果を発信することを目指しています。今後も、今回のような学会発表を通じ、人間社会に関連する地球規模の諸問題の解決に貢献していきたいと思います。

執筆者主任研究員 篠原 瑞生

<出典および参考資料>
  1. 日本気象学会, 2019, “2019年度秋季大会要講演予稿集”, p324
  2. 地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース
    日本周辺領域を含む全世界の高解像大気モデルによる計算結果。過去気候環境や将来の温暖化環境下について数千年分の計算結果が格納されている。過去のColumn(TMRI Column No.28)も参照。
  3. 熱帯低気圧積算エネルギー(ACE: Accumulated Cyclone Energy):台風の6時間毎の風速の2乗をある期間(年・月など)で積算した指標で、台風の活動度を示す。
  4. 日本気象学会, 2019, “2019年度秋季大会要講演予稿集”, p364
  5. 日本気象学会, 2019, “2019年度秋季大会要講演予稿集”, p212