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セミナー

2014年度自然災害リスクセミナー

自然災害研究の最前線
ー高まる自然災害リスクと大都市の脆弱性ー

東京海上研究所では、毎年社外向けのセミナーを開催しています。9回目となる本セミナーのテーマは、地球温暖化の影響などで激甚化する自然災害リスクにさらされる大都市の防災・減災です。都市防災研究の第一人者である関西大学・河田教授による基調講演や、国土交通省、東京都、ローソンからご登壇頂いた講師によるパネルディスカッションを通じ、防災や減災への取組みの現状、課題をご紹介頂きました。企業のお客様、代理店さんを中心に約250名のご参加を頂き、大盛況のうちに幕を閉じました。以下では、セミナーの各講演内容の概要についてご紹介いたします。

開催日時・会場

  • 日 時
    2014年11月6日(木)13:30〜16:55
  • 会 場
    東京海上日動ビル新館15F
  • 主 催
    東京海上日動、東京海上研究所

講演等の概要

開会挨拶
東京海上日動火災保険株式会社 取締役社長 永野 毅
基調講演高まる自然災害リスクと大都市の脆弱性
関西大学社会安全学部 教授 河田 惠昭 氏
河田 惠昭 氏

講師略歴

  • 関西大学理事・社会安全学部・社会安全研究センター長・教授 工学博士
  • 阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長
  • 1974年京都大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士
  • 1976年京都大学防災研究所助教授を経て、93年教授、96年巨大災害研究センター長
  • 2002年阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長(兼務)、2005年防災研究所長、2007年巨大災害研究センター長、2010年関西大学社会安全学部長、2012年より現職。京都大学名誉教授
  • 21世紀COE拠点形成プログラム「災害学理の解明と防災学の構築」拠点リーダ
  • 大都市大震災軽減化プログラム(文部科学省)研究代表者
  • 日本自然災害学会および日本災害情報学会会長を歴任
  • 政府関係では現在、中央防災会議防災対策実行会議委員
  • 2007年国連SASAKAWA防災賞(本邦初受賞)、2009年防災功労者内閣総理大臣表彰、2010年兵庫県社会賞受賞、2011年和歌山県知事表彰(防災)、2014年兵庫県功労者表彰(県勢高揚功労)

著 書

  • 『これからの防災・減災がわかる本』(岩波ジュニア新書)
  • 『スーパー都市災害から生き残る』(新潮社)
  • 『12歳からの被災者学-阪神・淡路大震災に学ぶ78の知恵』(共著)(NHK出版)
  • 『津波災害』(岩波新書)
  • 『にげましょう』(共同通信社)
  • 『新時代の企業防災』(中災防)など

講演内容

  • 都市災害を考える場合、高潮、津波、洪水、火山、地震とあらゆる外力を総合的にとらえていかねばならない。しかしながら、往々にして各分野縦割りの研究となってしまうため、今後は全ての災害を守備範囲として都市災害を研究していく必要がある。
  • 防災に特効薬はなく、災害が起こってからでは遅い。2020年を目標に、安全にオリンピックが開催できる環境を作り、東京があらゆる災害に強い都市になることが求められる。
  • 都市災害は時代と共に変化し、さまざまな被害形態が混在していくとともに、災害の悪循環が発生する。都市の防災力によって発生する被害は変わる。東日本大震災は地震、津波、原発の複合災害であった。東京で起こるスーパー都市災害は、広域・複合・長期化災害となることを認識しておく必要がある。従って、首都直下地震発生後には、次に発生する災害も意識した復旧の優先順位付けが必要である。
  • 都市化と共に地面が吸収する水の量が減り、降水時の河川の水量、ピーク流量が増し、洪水ピークの出現も早まる。首都圏で最も都市化が進んでいる利根川流域にも当てはまり、年々洪水の危険度が増している。従って、堤防の強化も必要である。60年以上も洪水が発生していないと、人は安全だと錯覚してしまう。
  • 大手企業の本社機能の一極集中(東京)は、諸外国には見られない。地震と風水災リスクにさらされる大都市は世界でも東京のみ。情報革命により、物理的な距離が問題とならなくなっており、日本でも企業の本社機能を東京以外に分散させることが求められる。
  • 災害レジリエンス(①頑強なこと②ゆとりがあること③資源の豊かなこと④すばやいこと)のポイントは、早く回復することにある。社会の防災力、減災力はレジリエンスで測ることができる。防災、減災はコミュニティ(=組織)レベルでの対応が必要。
  • 米国が同じことを繰り返さないのは、災害に関する検証がしっかりなされているからである。首都直下地震の「想定被害16項目」について、各省庁が東日本大震災での経験・失敗をしっかり検証し、将来の災害対策に生かすことが必要である。
講演防災とリスクコンサルティング
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 代表取締役常務執行役員 庄子 憲義 氏
庄子 憲義 氏

講演内容

  • 最近はERM経営が話題になる。代表的なのは総合商社や金融機関であるが、リスク量とリターンを分析してどの事業分野に集中的に取り組むか、どういった資産運用を行うかを判断している。格付会社が企業評価を行う際にERM経営も項目のひとつとなっていることから、自然災害リスクの定量評価も重要な意味を持つ。
  • リスク評価にはモデルを活用した確率論的なアプローチと、特定シナリオに基づくアプローチがある。現在は、一定の確率で発生し得る自然災害について、自社資産にどの程度の損害が発生するかを評価する手法が一般的である。企業が1000年に1度の最大級の災害に備えるのは困難であり、現実的に想定される自然災害でどのような影響を受けるのかを把握することが求められている。
  • 企業が事業継続計画(BCP)を策定する場合、勤務時間外(休日・深夜)に自然災害が発生した場合の体制構築を考えておくことも必要。当社では、従業員の居住地データがあれば、災害発生時間・場所に応じて、どの社員が出社できるかという分析が可能である。また、サプライチェーンの観点で、国内拠点だけではなく海外拠点についてもリスクの定量評価を行うことが効果的である。
パネルディスカッションスーパー都市災害への対応と課題
モデレーター
河田 惠昭 氏関西大学社会安全学部 教授
パネリスト
石橋 良啓 氏国土交通省 水管理・国土保全局防災課長
森永 健二 氏東京都総務局総合防災部 事業調整担当課長
吉田 浩一 氏㈱ローソン リスク・コンプライアンス統括室室長

講師略歴

<石橋氏略歴>
生年月日:1958年9月11日
京都大学大学院工学研究科土木工学専攻修了。奈良県出身
1983年4月 建設省(現国土交通省)入省
2008年4月 政策統括官付参事官付政策企画官
2009年7月 中部地方整備局木曽川上流河川事務所長
2011年1月 四国地方整備局企画部長
2012年9月 関東地方整備局企画部長
2014年7月 水管理・国土保全局防災課長(現職)
<森永氏略歴>
生年月日:1969年3月6日
青山学院大学法学部卒。神奈川県出身
1994年4月 入都
~以降、水道局、財務局で財務・予算関連業務等を中心に担当~
1995年1月 兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)で現地支援業務に従事
2005年4月 総務省 自治財政局に出向
2012年4月 千代田区 コミュニティ振興課長
2014年4月 総務局 総合防災部 事業調整担当課長(現職)
<吉田氏略歴>
生年月日:1960年11月1日
首都直下地震避難対策専門委員、内閣府・東京都帰宅困難者対策検討会議幹事会等の委員を務め、特定営利法人 日本経営倫理士協会、特定非営利活動法人 事業継続推進機構等の理事を歴任。
1986年7月 株式会社ローソン入社
2009年3月 コンプライアンス・リスク統括室 部長
2012年3月 コンプライアンス・リスク統括ステーション コンプライアンス・リスク部長 兼 情報セキュリティ部長
2012年9月 FCサポートステーション コンプライアンス・リスク統括室 室長
2013年3月 コンプライアンス・リスク統括室 兼 情報セキュリティ統括室 室長(現職)

講演内容

パネルディスカッションでは、次のような意見が示されました。

パネルディスカッションの様子
①国土交通省 水管理・国土保全局防災課長 石橋 良啓 氏
  • 洪水、嵐、高潮、地震、津波のいずれの災害についても影響を受ける可能性がある人々が多い都市のワースト10に日本の都市圏が3つ入っている(1位東京・横浜、4位大阪・神戸、6位名古屋)。
  • 1947年9月のカスリーン台風以降、荒川は氾濫していないが、荒川右岸の堤防が決壊し氾濫すると、東証一部上場企業大手100社のうち42社の企業の本社や銀行及び証券・商品先物取引業32社のうち19社の企業が浸水し、わが国の社会経済活動が麻痺してしまう。
  • 近年、気候変動等の影響により日本全国で水災害が激化・頻発化しているとともに、大都市における地下空間の拡大等、都市構造の大きな変化やゼロメートル地帯への人口・産業の集積化等が進んでいることから、特に大都市で大規模水害が発生する可能性が高まっている。
  • 今後、大規模水害が発生することを前提として、平常時から地方自治体や関係機関等が共通のタイムラインに沿った具体的な対応を協議し、防災行動計画を策定し、災害時にはそれを実践していくことが極めて重要となる。
  • 首都直下地震が発生した場合、立ち往生した車やがれき等で道路がふさがってしまう可能性が高いので、被災者の救出や救援物資の運搬、自衛隊の出動のために、8方位同時進行で都心へ向かう1車線及び都心からの1車線を緊急に確保する(道路啓開)体制を構築している。東日本大震災時には、2日で1車線確保を行った。また、災害時の緊急車両通行ルート確保を目的として放置車両を道路管理者が移動出来るようにするために、災害対策基本法の一部改正案を今国会に提出している。
  • 東京オリンピック・パラリンピック成功のカギを握るのが首都圏の防災力・減災力といっても過言ではない。というのも、オリンピック・パラリンピックの開催時期がそれぞれ、7月24日から8月9日、8月25日から9月6日と台風や豪雨災害が多い時期と重なるため、万一首都圏が災害に見舞われても、大会運営に影響を及ぼさないようなハード、ソフト両面での対策が必要となる。
②東京都総務局総合防災部 事業調整担当課長 森永 健二 氏
  • 東日本大震災の際に、首都圏で約515万人、都内で約352万人の帰宅困難者が発生。鉄道の多くが運行を停止し道路は大渋滞となり、救急車などが到着できず救命救助活動を阻害した。そこから得られた教訓の1つは、大規模地震発生の際は、むやみに移動を開始せず、職場や安全な場所にとどまることが重要ということである。
  • 都では、約92万人と見込まれる行き場のない帰宅困難者を受け入れる一時滞在施設の整備を促進しており、支援策として、一時滞在施設での備蓄費用の補助や、防災備蓄倉庫への固定資産税等の減免等を実施している。
  • 災害時に水道水やトイレの提供、地図等による道路情報の提供等のサービスを行う帰宅支援ステーションの拡充を進めており、都内で10,029店舗、31団体と協定を締結した(2014年11月6日現在)。
  • 震災が発生すると、上下水道をはじめ、電気、ガス、通信などのライフラインに支障が生じる。都では、東京都地域防災計画を定め、これらのライフラインを上下水道30日、電気7日、ガス60日、通信14日で復旧させることを目標としている。特に上下水道については、耐震化や液状化しやすい地域のマンホールの浮上抑制対策などを進めている。
③㈱ローソン リスク・コンプライアンス統括室室長 吉田 浩一 氏
  • 東日本大震災時、都内のコンビニから商品が消えたことを覚えている方もおられると思うが、コンビニが納品を止めたわけではなく、関東圏のメーカーの倉庫等に大きな被害があったため、安定供給が出来なかったことが原因である。
  • 災害時にも商品を安定供給するために、災害時物資供給協定を47都道府県12市区と締結している。また、帰宅困難者支援協定は39都道府県10政令指定都市と締結し、災害時にトイレや水、情報の提供を行う。
  • BCPの一環として、出荷機能が停止した被災センターの発注データを近隣の複数のセンター(救済センター)が受信し、代替センターとして商品供給を実施できるようにする取り組みを行っている。
  • 条例が自治体ごとに微妙に異なっていることが多いため、全国展開をしている企業では個々に対応していかなければならず、大きなロードがかかるので、横串を刺した条例制定を求めたい。
④関西大学社会安全学部 教授 河田 惠昭 氏
  • 帰宅困難者対策に関して問題は多様化している。保育所に子供を迎えに行かなくてはならない、介助が必要なお年寄りが家に取り残されている等の事情がある場合の対応等、具体的にどのような問題が起こるかについて、国や自治体が主導して具体的なアドバイスを提示していただきたい。
  • 災害時にどのような手段で逃げるかアンケート調査を実施すると、6割が自動車で、3割が徒歩で逃げると回答したにもかかわらず、実際、愛媛県の津波警報発令時には9割が自動車で逃げたために渋滞が発生してしまった。災害が発生する前の想定と発生後の状況は乖離することを念頭に計画を立てなければいけない。
  • 災害対策は、対症療法だけではなく長期的な戦略を国や自治体が主導となり策定する必要がある。ただ、問題は多岐にわたり、かつ非常に難しい。みんなで文句を言い合い、揉めながら進めることで、他人事ではなく自分事として皆が考えることができ、よりよい対策となっていくのではないだろうか。
閉会挨拶
東京海上日動火災保険株式会社 取締役副社長 岩井 幸司

以上