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研究員ブログ

TMRI ColumnNo.23

防災について改めて考える
~6月3日・4日の地域安全学会(於:高知)に参加して~

生活者の立場から防災・減災に、学際的に取り組む「地域安全学会」の2016年度春季大会が、高知で開催され参加しました。興味深い新たな研究内容が数多く発表され、大変感慨深いものがありました。研究発表を聞きながら、防災については今後検討すべきこと、研究すべき課題が山積されていると感じました。自分も今後少しでも社会に貢献したいと決意を新たに、高知龍馬空港を発ち、帰宅の途につきました。

地域安全学会とは(学会の設立趣旨より抜粋)
生活者の立場から地域社会の安全問題を考え、地域社会の安全性の向上に寄与することを目的として、1986年12月に設立されました。地域の安全問題のように、社会存立の基本にかかわる問題の解明と解決には、社会のあらゆる分野での連絡と意思の疎通が必要で、自然科学ばかりでなく、人文社会科学を含めた多方面の協力が求められます。そのため、地域安全学会は、横断的な幅広い大学等の研究者・民間企業等の技術者・国や地方自治体の実務家が互いに協力しあって、地震等の自然災害ばかりではなく、さまざまな人為的災害を対象として地域の安全問題に関する研究を行ない、研究発表会や国際会議・シンポジウムで自由に意見を交換し合い、具体的な提言をしてきています。地域の安全問題に関心がある方々の情報交換と相互協力の場として、地域安全学会は、その役割を果たしていきます。

1日目(6月3日)

1日目は学会メンバーから全体として56本の研究成果発表が行われました。
今回の春季大会では、発表内容としては、現在の日本の地域社会を見まわした場合に考えられる、防災上、未検討・未解決な様々な課題に対し問題提起を行い、それに対し地震学・工学・社会学など学問分野を超えた学際的な提案をする内容でした。

印象的な発表は多くありましたが、テーマが身近な「首都直下地震時における都心帰宅者へ与える各種影響に関する研究」という発表がとても印象的でした。首都直下地震発生後に歩行で帰宅する人の行列がどのようなスピードで多摩川を渡れるのか、をシミュレーションしたものでした。最終的な結論ではないようでしたが、発表時のシミュレーションでは、神奈川県方面に向けて多くの人が歩き始めた場合には多摩川の橋の袂に、7時間以上の待ちの行列ができる可能性があるというものでした。

東日本大震災の際には首都圏でも鉄道がストップし、多くの帰宅困難者が出たことで、改めて災害対策の重要項目として再認識されました。東日本の太平洋沖を震源とする地震でも大変な混乱・トラブルが発生したのですから、首都直下地震では相当程度の混乱・トラブルを免れないかもしれません。しかし、研究者や実務家そしてひとりひとりが努力をすることで想定外を想定内に収め、また英知を結集しできる限りの対策を行うことで、被害や混乱・トラブルを減少させることができるように思います。これからも学際的な実学としての地域安全学会には、大きな期待が寄せられると感じました。

2日目(6月4日)

2日目は、現地見学会が行われました。今回の学会では津波リスクが高いとされる高知県で行われたこともあり、津波避難施設(写真1)などへの訪問を行いました。この建物の一つ目の特徴は、建物の外側に車いすで利用するスロープがつけてあることです。建物の外側にスロープを付けることで、屋内に付けるよりも螺旋状に上がっていくスロープの半径(R)が大きく取れることで緩やかな傾斜角が実現できていました。普段は地域の各種のサークル活動で利用していることです。

二つ目の特徴としては、屋内が木をふんだんに使用した温かみのある空間に仕上げられ(写真2)、居心地の良い空間となっていることでした。普段は、この建物は地域のサークル活動に使用されているようで、予約を書き込むホワイトボードが壁に貼り付けてありました。

防災の分野では、「地域の防災はまず自分自身の避難所を見ることから始まる」としばしばいわれます。この意味から考え、津波避難タワーが平素、地域のサークル活動の拠点となっていることは素晴らしいと感じました。「人は自分の知らない場所には行きたがらない」ということも防災心理学では言われます。

  • 津波避難施設

    写真1 津波避難施設

  • 津波避難施設の屋内

    写真2 津波避難施設の屋内

学会終了後

学会終了後、自宅に帰った翌日、家族と一緒に近くの避難所を訪れました。防災学に従事する研究者として、今後知人には避難所訪問、できれば避難所(地域の小学校などが避難所として指定されていることが多い)での各種イベントに参加するよう推奨していきたいと思っています。

執筆者東京海上研究所