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研究員ブログ

TMRI ColumnNo.11

「7つの所感」を考える

「失敗学」の生みの親である畑村洋太郎東京大学名誉教授が、東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会で報告書を取りまとめた際に、委員長として示された「7つの所感」を紹介します。

畑村洋太郎東京大学名誉教授

畑村洋太郎東京大学名誉教授

失敗学・危険学の権威である畑村洋太郎東京大学名誉教授(現・消費者庁消費者安全調査委員会委員長、写真)が、福島第一原子力発電所における事故調査・検証委員会(内閣事故調)の委員長として最終報告書を取りまとめた際、その最後に「100年後の評価に堪えるようにするため事故からどのような知識が得られるのか」を整理し、以下の点を7つの所感として示しています。

  1. あり得ることは起こる。あり得ないと思うことも起こる。
    発生確率の低いものや知見として確立していないものは考えなくてよい、対応しなくてよいと考えることは誤りである。
  2. 見たくないものは見えない。見たいものが見える。
    組織・社会・時代の影響によって自分の見方が偏っていることを常に自覚し、必ず見落としがあると意識していなければならない。
  3. 可能な限りの想定と十分な準備をする。
    予期せぬ事態への準備が十分なら今回のような大事故には至らなかった可能性がある。思いつきもしない事態も起こり得るとの発想の下で備えることが必要である。
  4. 形を作っただけでは機能しない。仕組みは作れるが目的は共有されない。
    事業者、規制関係機関、自治体の各構成員が、社会から何を預託され、自分の働きが全体にどう影響を与えるかを常に考える状態を作らねばならない。
  5. 全ては変わるのであり、変化に柔軟に対応する。
    全ての事柄が変化すると考え、外部の声に謙虚に耳を傾け、適切な対応を続ける以外にない。
  6. 危険の存在を認め、危険に正対して議論できる文化を作る。
    危険を危険として認め、正対して議論できる文化を作らねば安全というベールに覆われた大きな危険を放置することになる。
  7. 自分の目で見て自分の頭で考え、判断・行動することが重要であることを認識し、そのような能力を涵養することが重要である。
    想定外の事故・災害に対処するには、自ら考えて事態に臨む姿勢と柔軟かつ能動的な思考が必要である。

これらの所感は、事故や災害を前提として記されていますが、事故や災害に限らず、例えば、会社経営、組織運営さらには個人の生活にも普遍的に通用する内容であるのではないでしょうか。
また、研究機関に身を置くものとして、あるテーマについて調査・研究する際にも当てはまると思います。特に、二点目の「見たくないものは見えない。見たいものが見える」については、ある結論を導く場合、自分に都合の良い情報だけを取捨選択し判断するとしたら、捨象した情報が実は重要であり、無視したことから辻褄が合わなくなったり、矛盾する結果になったりすることがあります。自分にとって不都合な情報を遮断してしまい、周囲の多数の人の行動と合わせる「多数派同調バイアス」や、まだ大丈夫と自分で納得する「正常バイアス」といった「先入観」「思い込み」が生ずることは心理学的にも説明がなされています。こういう事態を避けるためにも、5番目の「第三者の声に謙虚に耳を傾け」、6番目の「正対して議論のできる文化を作り」、そして他の情報を鵜呑みにするのでなく、7番目の「自らの目で見て考え、判断・行動すること」のできる能力を磨くことが重要でしょう。
自らを戒めるため、この「所感」を時々読み返しています。

執筆者研究所長 多賀谷 晴敏