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研究員ブログ

TMRI ColumnNo.3

イノベーションに関する問答 〜Round 3〜

東京海上研究所、主席研究員の渡辺です。これまでご紹介した牧野vs多賀谷のイノベーション問答は、 「保険にとってイノベーションは不可欠か?」、 「イノベーションを醸成するにはどうするか?」 と発展してきましたが、最後の命題は 「イノベーションに『ワクワク、仕事が面白い』が必須か?」 です。 イノベーションを起こすためには、仕事はワクワクするような面白いものでなければならないという牧野さんに対して、多賀谷さんは、いきなり全員のタガを外したら却って混乱するのではないか、とやや慎重です。

イノベーションに「ワクワク、仕事が面白い」が必須か?

【多賀谷】
イノベーションに「ワクワク、仕事が面白い」が必須か?:勿論、人間、好きなことをやっている方が一生懸命になれるし、モーティベーションも上がります。でも、企業で働く殆どの人は、そのような環境で仕事ができません。だから、そのような環境を作る必要があるのではないかと思う半面、アラブの春を思い起こします。どういう関係があるか?誤解を恐れずに整理すると「民主主義に慣れていない人々がいきなり民主主義を押し付けられても本来の民主主義の良さを享受できず、却って混乱が生じた」ということです。じゃ、どうするの?これも、難しいのですが、私の答えは、「出来る人がやって、少しずつ仲間を増やしていく。時間はかかるけど、そうでないと定着はしない」と思います。
以上、感想です。
【牧野】
私たちの世代は(他の世代もそうかもしれませんが)、「楽しく働いてお金をもらおうなんて甘い。つらくて苦しいことに耐え、言われた通りに働いてはじめて、その代償として給料がいただけるんだ」ということをず~っと刷り込まれてきました。「ワクワク、楽しく働きたいですか?」と聞くと「そんなの無理に決まってるだろ」という答えが返ってきます。できるかできないかを聞いてるのではなく、そのように働きたいかどうかを聞いているのに、です。そこまで深く刷り込まれているのですね。
ただ、グローバル競争はますます激しくなってきています。コンピュータネットワークのおかげで、世界中の才能がどんどん頭角を現してきています。彼らと競うのは楽しい反面、猛烈なエネルギーを必要とします。面白くないこと、苦手なことをいやいややっていたら、そのようなエネルギーは出てきません。
最近読んだ本に、セス・ゴーディンのThe Icarus-Deceptionというのがあります。父の忠告を無視して高く飛びすぎたために太陽の熱で翼のロウが溶け、墜落死したイカロスの物語は有名ですが、この物語の言わんとしている「権威ある人の言うことに従え、高望みするな」という教訓は欺瞞(Deception)であるというのがこの本のメインテーマです。
The Icarus-Deception
ゴーディンは、「わずかばかりの安定性と引き替えに、自分の才能を殺しながら働いてはいけない」「そもそもこれまでのような安定性はもうない」「才能がない人なんていないんだ!」ということをこの本の中で繰り返し繰り返し述べています。また、「別にそのために会社を飛び出す必要はない。会社の中にいてもできることは沢山ある」とも言っています。
ただし、カゴの鳥がいきなり外に出されてもどこに飛んでいっていいか分からないように、まずは「管理されている自分」から抜け出す必要があります。これをやるのは、「管理されていた方も管理していた方も、勇気がいることである」とも言っています。
しかし、急にそんなことを言っても意識はなかなか変わらないので、長期的な話になりますが、集団の規律に最も重きを置く学校教育(朝礼・制服・校則・遠足・修学旅行・無遅刻無欠席表彰など)から変えていかないといけないのでは?と思っています。
では、全ての人が好き勝手なことを始めたら、人がいやがる仕事は誰がやるのか?
ロボットがやってくれますよ、きっと。
【渡辺】
私も「好きなことをやってお金がもらえるなんて甘いんじゃない?」と思っていましたが、牧野さんの持論は「嫌いなことを無理やりやらせて競争に勝てると思う方が甘い」のようです。ただ、多賀谷さんのおっしゃる通り、いきなり全員が好き勝手なことを始めたら収拾がつかなくなるような気もします。
みなさんはどう思いますか?
<登場人物>
東京海上研究所
  • 多賀谷常務取締役(事務局長)
  • 牧野主席研究員 未来社会研究グループ
  • 渡辺主席研究員 自然災害リスク研究グループ