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研究員ブログ

TMRI ColumnNo.2

イノベーションに関する問答 〜Round 2〜

東京海上研究所、主席研究員の渡辺です。前回のRound1では、「保険にとってイノベーションは不可欠か?」をお送りしました。 「規制産業である保険業界にとってイノベーションは、有れば良いけれどcriticalではなかった。しかし今後は勝ち残るためにイノベーションは必須」と冷静な構えの多賀谷さんと、「保険業界のイノベーションといっても、現在のところは、今あるものをデジタルに置き換えただけで、保険ビジネスの本質はあまり変わっていない」と、若干フラストレーション気味の牧野さんでした。次に、多賀谷さんは「では、イノベーションを醸成するにはどうするか?」と問いかけています。

イノベーションを醸成するにはどうするか?

【多賀谷】
イノベーションを醸成するにはどうするか?「答えが解れば教えて欲しい」ですが、少なくとも言えることは、「常に誰かが考え続けなければイノベーションは出てこないし、仮に偶然できたとしても、持続性はない」ということでしょう。だとすると、イノベーションが醸成されるような企業文化を形成するしかないのでしょう。
問題は、howです。ここから段々、自信がなくなるのですが、先ず組織のトップが常時そのようなマインドを持って発信すること。次に、イノベーションを表彰や考課・昇給に組み込むこと。というように、凡人の発想しかでてこないのでイノベーションは難しい。みんなで考えましょう。
【渡辺】
これに対して、牧野さんは企業、大学の実例や、牧野さん自身が大学の講義でやっていること、そして、社会人2年生の息子さんの会社が提供しているイノベーション手法などを挙げて応じています。
【牧野】
「イノベーションを醸成するにはどうするか?」これは本当にみんな悩んでいる所なのですが、企業文化 × メソッド × マインドの掛け合わせでしょうか。
企業文化で言えば、「勤務時間の中で、現在の自分の仕事に関係ないことをやってもOK」というGoogleやW.L.Goreが有名です。日本でも昔は「何か画期的なことは、上司に隠れてやれ」という暗黙の掟があった会社が存在していました。今では社内規定がうるさくなって、もうそのようなことはできないそうですが。
メソッドですが、スタンフォード大のD-School、東大のi-Schoolなどで、イノベーションを醸成するメソッドが活発に研究されています。かく言う私も東大の大学院で、科学技術振興機構の奥和田久美博士と「新たなICT・ビジネスの発見」というワークショップをやっております。
ガートナーインフラストラクチャー・データセンターサミット2014での牧野さんの講演資料

出典:ガートナーインフラストラクチャー・データセンターサミット2014での牧野さんの講演資料

また、私の息子が勤めているコンサル会社では、アイディア・ワークブックというメソッドを提供しています。多賀谷さんのおっしゃる通り、「常に誰かが考え続けなければイノベーションは出てこないし、仮に偶然できたとしても、持続性はない」というわけで、とにかく1日15分、毎日アイディアを出し続けるト レーニングをすることで、「アイディアの出やすい体質づくり」をするそうです。イノベーションの筋トレとでも申せましょうか。
フィンチジャパン

出典:フィンチジャパン

ただし、「イノベーションを表彰や考課・昇給に組み込む」のは効果があるのか、やや疑問です。
米国の作家、ダニエル・ピンク氏が著書 “Drive(邦題:モチベーション3.0)” で書いているのですが、イノベイティブな仕事に報酬を与えると、かえって生産性が落ちるんだそうです。例えば、ある大学の実験では、学生を2グループに分けて、ちょっとアタマをひねらないと解けない問題を与える。1つのグループには、「この問題を最初に解けた人には20ドルをあげます」と言い、もう一つのグループには「これは実験で、平均時間を計っています」と言う。そしてやらせてみると、報酬を与えたグループの方がそうでないグループよりも3分半余計に時間がかかった。
「単純な作業の場合には、報酬はプラスの要因になるが、クリエイティブな作業の場合には逆効果になる」。このことは40年もの間、手を変え品を変え、さまざまな実験で立証されてきたのに、なぜかビジネス界ではずっと無視されてきた、とダニエル・ピンク氏は言います。つまり、報酬や考課・表彰などの「外発的動機」ではなく、内面から「やりたい!」とわき出てくる内発的動機が必要と言うわけです。これが「マインド」の問題です。
詳しくはこちらをご覧下さい。すごく面白いです。
TEDでのスピーチ:https://www.youtube.com/watch?v=YcJJYQB0mY0
【渡辺】
なんと、牧野さんは親子ともどもイノベーション関係の仕事をしているのですね。そういえば4月のガートナーのサミットで、イノベーションをテーマに親子で登壇していたとか..
しかし、報酬や考課、表彰などのインセンティブはイノベーション醸成に効果がないとすると、イノベーションを生み出す原動力は何なのでしょう?
次回のテーマは、イノベーションに「ワクワク、仕事が面白い」が必須か?です。
お楽しみに!
<登場人物>
東京海上研究所
  • 多賀谷常務取締役(事務局長)
  • 牧野主席研究員 未来社会研究グループ
  • 渡辺主席研究員 自然災害リスク研究グループ