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研究員ブログ

TMRI ColumnNo.21

地域コミュニティの防災が変わる?

日本列島付近は、世界で最多の4つのプレートが集まっており、遅かれ早かれ一定規模以上の地震や噴火が発生することが解っています。また、地球温暖化の影響も徐々に出てきており、巨大台風の発生や豪雨・豪雪、干ばつといった極端現象の増加も想定されます。さらに、人口の都市への集中により都市型災害による被害の規模が大きくなりつつあります。いつ起こるかの予想は困難ですが、いずれ起こる巨大災害に我々はどれだけの準備ができているでしょうか?

自宅周辺のリスク

みなさんは、自分の住んでいる場所がどれだけ安全かご存知でしょうか?今は、殆どの自治体がホームページを通じ、自然災害が地域にどのような影響を与えるかをハザードマップによって案内しているので、それを参照することでどのようなリスクがあるか解るようになっています。因みに、筆者の自宅は東京の西よりにあるのですが、2000年9月の東海豪雨並み(総雨量589ミリ、時間最大雨量114ミリ)の降水があると、地形の関係で2m浸水する可能性のあることが示されています。観測記録のある1976年以降、地域で時間当たり降水量が100ミリを超えたことはなく、最大でも90ミリを超えた降水が2回ある程度であることから、気象予報で100ミリを超える記録的な豪雨に注意していれば良いということになります。

自助・共助

阪神・淡路大震災や東日本大震災といった大きな震災を経験して、行政だけで住民の安全を確保するのは難しいことが明らかになりました。特に、発災直後の混乱時における行政の対応は、災害が広域であればあるほど時間がかかることが予想されます。首都直下型地震が発生した場合、国交省は最低限の緊急輸送基盤を確保する目標(道路・港湾)を1日間としています(注1)。ということは、24時間或いはそれ以上はいわゆる自助、共助で持ちこたえなければならないことを意味しています。

よこすか海辺ニュータウン ソフィアステイシア地区防災計画

(出典:よこすか海辺ニュータウン ソフィアステイシア地区防災計画 2015年3月14日)

自助は、まさに自分のことなので「家族の安否確認」「自宅の損害の軽減」「3日分の水・非常用食料の確保」「ヘルメット・マスク・軍手等常備」「避難経路・避難先の確認」等々最低限のことをしておけば良いですが、共助とは具体的になんでしょうか。簡単に言えば近所に住んでいる人達とお互いに助け合うということですが日頃の付き合いが無ければ、どこにどういう人が住んでいるのかわかりませんし、高齢者の場合、身動きが不自由なことも想定され、複数でないと対応しきれないこともあります。マンションの場合は、規模が大きくなればなるほど、同じ階の住人同士でも名前も顔も知らないということが多いのではないでしょうか。横須賀にあるソフィアステイシアは1000人の居住者を抱える大規模マンションですが、2005年に自主防災会を立上げ、2014年に実施した防災訓練では全世帯の約46%の世帯から、合計326名が参加する程、住民の防災意識は高まっているとのことです(注2)
住民のコミュニティづくりは防犯からスタートしたそうですが、住民同士の挨拶や声掛け運動、名簿作り等、地道な活動の末に現在があるようです。

地域防災訓練

とはいうもののこのような成功例は少なく「宮城県石巻市が震災後初めて実施した12年度の訓練の参加率は11.6%だったが、13年度は8.4%、14年度は8.8%。」(毎日新聞2015年9月2日)とあるように地域の防災訓練に参加したことのある人の割合は、非常に低いのが現状で、各自治体とも参加率を上げることに苦慮していることが窺えます。地域差はあると思いますが、実際に参加してみると、参加者の少ないこと、参加者に高齢者の割合が高いこと、自治体の職員といっても必ずしも災害のプロでないこと等が解ります。筆者が参加した、関東直下型を想定した地域の防災訓練で、「二次災害を防ぐため、小学校の建物に避難するにあたり近隣に在住する1級建築士に被災の状況及び安全性を確認してもらい、その上で建物の中に避難してもらいます。」との説明がありました。確認にどれくらいの時間がかかるかとの質問への回答は「2時間くらいでしょうか」とのこと。地震が起こるのは天気の良いさわやかな日とは限らないわけで、恐らく病人も負傷者もいる中、豪雨や豪雪、強風、酷暑といった環境で建物に避難するのに2時間も待たされるという非現実的な前提だとすると実際に発生した時の混乱は想像に難くありません。皆さんの近所の地域防災はどのようになっているのか、先ずは、自ら確認されることをお薦め致します。

地区防災計画制度

内閣府 地区防災計画ガイドライン

(出典:内閣府 地区防災計画ガイドライン)

従来の防災は、国や地方公共団体主導で決められていましたが、現在は、地域に合った形で住民や地域コミュニティが主体的に行動することが人命を守ることにつながると考えられています。特に、高齢者などの要援護者の避難誘導計画を作る場合、周辺の環境や平日昼間の人口等地域の異なる事情に合わせた内容にする必要があります。それを受けて2014年4月に防災の計画を住民に委ねる「地区防災計画制度」(注3)が施行されました。

地区防災計画の作り方として二つのやり方があります。一つは地域の意向を踏まえて市町村防災会議が市町村防災計画に組み込む方法で、もう一つは、コミュニティの住民が地区防災計画案を作成の上、市町村防災会議に提案し、組み込む方法です。いずれにしろ、ポイントの第一は、住民自らが主体的に責任を持って関わること。第二に、防災の専門家の支援とノウハウを保有する人材の育成です。この制度はまだ、開始して日が浅いため、市町村の担当者も十分理解していないかもしれませんが、特に高齢者が多く若者が少ない地域においては巨大災害時に人命の損失を減らすためにも導入することが望まれます。

研究所長 多賀谷 晴敏

<注釈>
注1:首都直下地震緊急対策推進基本計画 平成27年3月31日閣議決定
注2:C+Bousai地区防災計画学会誌 vol.3 2015 July
注3:地区防災計画ガイドライン 平成26年3月内閣府(防災担当)
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