TMRI ColumnNo.1
イノベーションに関する問答 〜Round 1〜
東京海上研究所、主席研究員の渡辺です。本日より、私達研究員が様々な事柄をテーマに不定期にBlogを発信していきます。ここの研究員は、普段は黙々と研究にいそしんでいることが多いのですが、時には意見を戦わせることもあります。 最近では、4月に研究所に着任した主席研究員の牧野さんと、事務局長の多賀谷さんとの間で、イノベーションに関してちょっとしたメールでのやりとりがありました。(なぜメールかと言うと、牧野さんはあちこち飛び回っていて研究所の席にいることが少ないからです) 発端は、金融機関のイノベーションに関するセミナーに出席した牧野さんが書いたレポートに、多賀谷さんがコメントをしたことです。そのやりとりが面白かったので、私、渡辺が研究員Blogで皆さんにご紹介したいと思います。
保険にとってイノベーションは不可欠か?
- 【セミナーにおけるパネリストの発言から】
- 金融機関の現場は日々の数字で評価され、中長期的なイノベーションに力を入れられない
- 【多賀谷】
- 保険にとってイノベーションは不可欠か?保険とか金融は、規制された産業で、事務の正確性と効率性が高い程良いというのが、業界常識で、それを求められてきたし、今も求められています。従って、規模のメリットが生きやすい産業で、結果的に銀行や保険業界は統合が進みました。そのような環境下でイノベーションは、有れば良いけれどcriticalではなかったのでしょう。ところが、この20年、経済状況(デフレ、所得格差の拡大)、社会構造(少子高齢化、独居世帯の増加等)、ICTを初めとする技術革新、グローバル化等々環境は大きく変わり、従来の競争優位基準や価値が変化しつつあります。ライフスタイルや生活等いろいろな面で多様化が進むことから、その多様化にあった商品やサービスを提供しないと勝ち残れなくなります。また、競争相手も業界他社だけでなく異業種も視野に入れる必要があります。このことから勝ち残るためにイノベーションは必須という時代になったといえます。
- 【牧野】
- おっしゃるとおり、不可欠だと思います。「紙と鉛筆の商売」と言われていたのが「コンピュータによる装置産業」になり、今までは計測不能と思われていた様々なリスク(地震、台風、交通事故、疾病など)がセンサー、ビッグデータ、バイオテクノロジによって次第に可視化されるようになりました。
東京海上日動も、“抜本改革[1]”、“次世代契約プロセス[2]” などの大規模改革に加え、“ワンタイム保険[3]”、“ちょいのり保険[4]” などユニークな新商品を他社に先駆けて発売しており、「イノベイティブな保険会社」として、海外では(最近は日本でも)認知されており、ガートナーやセレントなど、コンサルティング会社のプレゼンで先進事例として頻繁に紹介されたりしています。
ただし、現在のところは、今あるものをデジタルに置き換えただけで、保険ビジネスの本質はあまり変わっていないと思います。保険業界のイノベーションと喧伝されている “Friendsurance” も、保険商品そのものは提携した損害保険会社が引き受ける、普通の保険です。
そのうち保険の概念を根底から覆すようなものが業界の外で生まれるのではないかと、個人的には思っています。
- 【渡辺】
- どんな産業においてもイノベーションが必要であることに異論をはさむ人は少ないでしょう。ただし、多賀谷さんの言う通り、伝統的規制業界であった保険会社にとって、イノベーションは「有れば良いけれどcriticalではなかった」ことは確かです。
そして、牧野さんは、「東京海上日動はイノベイティブな会社として認知されている」と持ち上げつつも、「実は本質的なイノベーションはまだこれから」と、 チクリと刺しています。まだまだ本気でイノベーションに取り組んでいるレベルとは言えない、ということなのでしょうね。
それじゃどうすればイノベーションが起こるのか?2人の議論はそちらの方に向かいます。
次回、Round2は「イノベーションを醸成するにはどうするか?」をお送りします。お楽しみに!