To Be a Good Company

研究員ブログ

TMRI ColumnNo.15

アニメと保険

「保険」と聞くと、「必要なのは分かるが、内容が難しそうでとっつきにくい」と思われがちでした。かつては保険契約する時に、細かい文字がびっしり詰まった分厚い約款(契約条項)を渡され、重要な点をしっかりと理解する努力が求められるなど、契約者にとって補償を得るための苦行を強いられる時代がありました。

最近でこそ保険の仕組みやメリット・デメリットなどの情報量も増えてきましたが、考えてみると、われわれが大人になるまでの過程で、保険のことをしっかりと学ぶ機会はありませんでした。実際、こども時代に「保険」という言葉を見聞きすることはほとんどないでしょう。小学校や中学校でスポーツ活動をする時に団体で傷害保険に加入することがありますが、生徒自身に保険の仕組みを説明することはあまりありません。こどもが保険に触れる機会をどのように創れば良いのかということを考えていたところ、娘と観ていたアニメで「保険」がテーマとなっている話が2つあり、なかなか秀逸だったので紹介したいと思います。

最初は世界中で人気のアニメ「ドラえもん」です。未来から来たネコ型ロボット「ドラえもん」が、さまざまな「ひみつ道具」で小学生の「のび太」を助ける話なのですが、ひみつ道具のひとつに「なんでも保険」という素晴らしい道具が登場します。保険外務員型の女性ロボットが保険の加入を勧めてくれるのですが、保険の対象としたい物や事象を伝えると、契約金(正確には保険料)や保険金の支払条件を個別に設計・提案してくれ、折り合えば契約手続きまでわずか数分で完了できます。契約者にとって何と利便性の高い仕組みでしょうか。

商品設計は、1日10円の契約金で、いじめっ子のガキ大将(ジャイアン)に殴られたら50円、蹴られたら30円の支払いを受けられるといった具合です。予想通りジャイアンにいじめられて数百円の保険金を受け取ったのび太は、調子にのって契約金を倍の20円としました。その途端、全くいじめられなくなり、保険金を受け取れません。焦ったのび太は保険契約前にジャイアンに壊されたおもちゃを保険外務員ロボットに見せて保険金請求しますがもちろん認められず、挙句の果てにジャイアン本人に自分を殴るように頼みますが、それもかないませんでした。前者は保険事故発生後の保険契約締結(保険用語で「アフロス」)、後者は故意となり、詐欺にあたるので保険の世界ではいずれも免責です。この話では、保険料と保険金という保険の基本的な仕組みから免責の存在まで触れられており、さらに1台のロボットが保険引受けから保険金支払手続きまでこなしてしまうという、非常に示唆に富む内容だと言えます。

もうひとつは、こちらも人気アニメ「クレヨンしんちゃん」で、主人公で幼稚園児の「野原しんのすけ」が住む家がガス爆発で全焼します。ガスコンロの火が消え、ガスが漏れ続けた状態に気付いたしんのすけの母親が、動転して「火!火!」と叫んだところ、しんのすけが「はい、火」と言ってライターで火をつけてしまい、その瞬間に家が完全に吹き飛んだという怖いお話です。焼け出された一家はローン残債を抱えて悲嘆にくれていましたが、父親が火災保険の存在を思い出し、無事に保険金が支払われることになって一家の生活は守られたというエンディングでした。これだけの事故にもかかわらず皆大きなケガもなかったこと、5歳のこどもに火を扱わせること、母親が火災保険の存在を知らなかったこと、などの突っ込みどころはさておき、この話では火災保険が生活維持のために大きな役割を果たしていることを伝えています。

アニメを1回観た程度では、保険とは何かを深く考えることはないかもしれません。しかし、こどもたちは1回観たアニメの内容を簡単には忘れません。お金を払えば自分が受けた被害を補償してもらえる、火災保険に入っておかないと大変なことになるといったイメージをおぼろげながらでも持ったこどもたちは、保険に対する理解が少しは早くなるかもしれないと期待してしまいます。今のこどもたちが成長していく時代は、社会やライフスタイルが大きく変化していくと予想されます。それに伴って、われわれを取り巻くリスクも常に変化を続けています。変化するリスクに順応できる感度を、こどもたちは養っていく必要があるでしょう。

一方で、社会の変化に応じて、保険の商品内容や契約方法も変わっていかなければなりません。例えば、手軽な移動手段として今や国内に7000万台以上あると言われる自転車ですが、かつては自転車に乗るのに保険を契約するというのは、それほど一般的ではありませんでした。ところが、5分に1件の割合で発生する事故による死傷者は年間10万人を超え、加害者となった時の損害賠償額も高額化する事例が散見されるなど、自転車事故を取り巻く環境は由々しき状況となっています。このような状況を踏まえ、東京海上日動火災保険㈱では自転車利用者向けに「eサイクル保険」を発売致します(2015年10月20日発売開始予定)。傷害保険と賠償責任保険をセット(※)したもので、インターネットで簡単に申し込めるため、お客様にとっての利便性も高い商品となっています。「なんでも保険」とまではいきませんが、変化するリスクとお客さまのニーズを着実にマッチングさせられる商品が、今後ますます求められていくでしょう。

※傷害保険のみのプランもございます。

執筆者主席研究員 渡辺 宏一郎