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研究員ブログ

TMRI ColumnNo.10

都市づくりに活かす気象学
〜気象学会春季大会(2)〜

前回のコラムに引き続き、日本気象学会の春季大会(5月21日~24日 茨城県つくば市)の模様を紹介したいと思います。

そもそも「気象」とは、地球の大気における気温・気圧の状態や、その結果生じる降水などの現象を表す言葉です。従って、気象学はもっぱら大気で起こる現象の仕組みやプロセスを明らかにすることに力点が置かれており、学会での研究発表の多くもそうした基礎研究となっています。一方、地球温暖化の進行や異常気象の頻発を背景に、気象に関心を持つ方が増えていますが、それは気象が「自分たちの生活に直接的な影響を与える身近な存在」であるからにほかなりません。東京海上研究所でも、将来の街やコミュニティのあり方について研究を行っていますが、その中で長期的な将来の気象変化を考えることは重要な視点だと考えています。気象学を活用して安心・安全な生活を実現することが、今後さらに求められるようになると思います。

今回、「人の生活との関係を重視した気象学」である「環境気象」のセッションに参加しましたが、興味深い研究が多くありました。例えば、都市化が進行すると都市の気温はどうなるのかという研究[1]では、全ての都市で高温化が一様に進行するのではなく、ロケーションによって高温化の進行速度に違いが生じるとの報告がなされました。盆地では都市化により高温化が加速するのに対し、海のない内陸平野部では日最高気温は上昇が加速するものの、日最低気温の上昇にはブレーキがかかるという結果が得られたそうです。住む場所によっては寝苦しい夜が多くなるかもしれず、健康面では気になるところです。

また、暑さ指数[2](WBGT)という評価指標を用いて、都市の集約や分散がわれわれの生活に影響を与えるのかという研究[3]では、現在の都市構造のままだと2050年代の8月のWBGTは急上昇し、特に内陸都市では熱中症になる可能性が非常に高い「危険日」が15日以上になると予測されています(現在「危険日」はほぼありません)。一方で、人口を都市に集約するとWBGTは現状水準維持、人口を分散させるとWBGTは低下するという結果が得られており、必ずしも都市化でWBGTが悪化するわけではなく、都市シナリオによって快適性を高められることが示唆されています。

夜の大阪

現在、ヒートアイランド現象により都心部では高温化がより顕著になっています。そのため「都市化するとますます暑くなる」と想像しがちですが、50年後をシミュレーションすると、日本全体では地球温暖化による昇温が+2℃前後なのに対し、都市化による昇温は+0.2℃程度にすぎないとの研究結果もあります。考えなければいけないことは、都市のロケーションやスタイルによって高温化の影響は大きく異なるということで、現在の都市構造を変えなければ地球温暖化の影響を直接受け、生活環境は確実に悪化することになります。今後の街のあり方を考えるにあたっては、気象学のような科学的なアプローチを織り込んで、快適な生活を追求していくことも重要でしょう。

執筆者主席研究員 渡辺 宏一郎

<注釈>
  1. 「都市における気候形成の地理特性への依存性」伊東瑠依(京大防災研究)ほか
  2. 環境省熱中症予防サイト
  3. 東京の暑熱環境緩和における都市シナリオ適応効果」鈴木パーカー明日香(筑波大)ほか