TMRI ColumnNo.4
高齢者コミュニティの新しい姿(前編)
「高齢者コミュニティ」と聞いて、どのような印象を持つだろうか。次第に若者がいなくなり、結果的に高齢者だけ残されてしまった、山あいの限界集落[1]が頭に浮かぶかもしれない。あるいは、もう少し身近な存在として、高齢の商店主が何とか商売を続けようと苦戦している、地方都市のシャッター商店街を想像するかもしれない。いずれにしても、活気とは無縁の、淋しさが漂う情景には変わりない。限界集落やシャッター商店街は、なすすべもなく少子高齢化の影響を被ってきた結果の「残滓(ざんし)」ともいうべき存在であろう。
これまでのわが国の街づくりの議論では、「子どもを増やすために子育てをしやすい環境をつくる」ことや「都会に出て行く若者を呼び戻すために地域の魅力を高める」ことが取り上げられることは多かったものの、成功した事例は多いとは言えません。子どもを産み育てる世代や若者世代の価値観は変化しており、政策誘導効果は限定的になりつつあるといえるでしょう。真に実効性を高めるためには、多様化するニーズに肌理細かく対応することが求められるますが、現実的には困難です。そのため、子どもや若者に焦点をあてた街づくりの議論は、多様性の存在にある程度目をつぶらざるを得ず、空理空論となりがちでした。
今後、出生率の劇的な改善は望めない一方、当面の高齢者数増加は確実なので、高齢者を主役とした街づくりに、国を挙げて取り組むことが必要ではないでしょうか。とかく高齢者というと、健康に問題を抱えており労働力とならないという先入観から、「社会のお荷物」とみなされる風潮がなかったわけではありません。しかし、厚生労働省の調査によると、65歳以上の高齢者[2]のうち約8割は「健康な高齢者[3]」です。85歳以上の高齢者に限っても非健康者の割合は男女共に4割以下にすぎません(表参照)。
高齢者に焦点をあてた街という観点で「アクティブシニアタウン」に注目したいと思います。これは居住者を健康な高齢者に限定した高齢化率100%の街で、高齢者のQoL(Quality of Life:生活の質)極大化を目指す街づくりです。既に米国では数千人規模のアクティブシニアタウン成功例がいくつもあります。教育や子育て関連支出やサービス提供を排除することで行政が効率化し、税額を低く抑えられるなど、高齢者にとって住みやすい環境が整っています。
行政の立場からみると、アクティブシニアタウンでは高齢者に真に必要なサービスだけを充実させていけば良いため、無駄が排除され行政効率化が期待されます。その結果、高齢化と人口減少が進行した社会にとってソリューションのひとつとなり得る「コンパクトシティ」の実現にもつながるのではないでしょうか。
次回、「高齢者コミュニティの新しい姿(後編)」では、アクティブシニアタウンの実例について紹介したいと思います。
主席研究員 渡辺 宏一郎