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TMRI Column No.26 おとぎ話 in 2045

長い間人々に語り継がれてきたおとぎ話や寓話。私たちは子供の頃から「アリとキリギリス」や「ウサギとカメ」などの物語を通じて、額に汗して働くことの大事さや、コツコツと努力する者の強さなどを教えられてきました。 これらのおとぎ話は、時代の価値観や考え方の変化に応じて形を変えているものもあります。たとえば「鬼を全滅させず、最後は和解する桃太郎」などです。 さて、テクノロジが幾何級数的進化を遂げ、人間の仕事の多くは人工知能とロボットに代替されているかもしれない2045年、おとぎ話はどう変貌しているでしょうか?

1  アリとキリギリス2045

アリとキリギリスある夏の暑い日、キリギリスが野原で歌を歌っていると、アリたちが汗をびっしょりかきながら何かを運んでいるのに出会いました。
「おい、アリくんたち、何をしてるんだい?」
「これはキリギリスさん、わたしたちは食べ物を家に運んでいるんですよ」
「ふーん。だけど、ここには食べ物がいっぱいあるじゃないか。ぼくみたいに、お腹がすいたらそこらへんにある物を食べて、あとは楽しく歌を歌ったり、遊んだりしていればいいじゃないか」
「でもね、キリギリスさん、今はいいけど、冬が来たらここも食べ物はなくなってしまいますよ。今のうちにたくさんの食べ物を集めておかないと、あとで困りますよ」
アリたちがそう言うと、キリギリスはバカにした様に、
「人生は楽しむためにあるもんだ、そんなに仕事ばかりしてないで、今を楽しもうよ」
と言って、また歌を歌い始めました。

やがて、寒い冬がやって来て、野原には食べ物が一つもなくなってしまいました。
「ああ、お腹がすいた。どこかに食べ物はないかなあ・・・あっ、そうだ、アリくんたちに何か食べさせてもらおう」
キリギリスは急いでアリの家にやって来ました。
アリは家の中から顔を出すと、
「だから言ったじゃないですか。今回は助けてあげますけど、来年はちゃんと働いてくださいよ」
といって食べ物を分けてくれました。

ところが、翌年の春になると、人工知能を搭載した働きアリロボットが大量に導入され、アリたちは仕事がなくなってしまいました。同時期に導入されたユニバーサル・ベーシック・インカムによって食べることは保証されているものの、働くことしか知らなかったアリたちは生きる目的を見失い、次々と鬱になっていきました。
「これは困った、何とかしなければ」
アリのリーダーは考えた末に、相変わらず楽しそうに歌っているキリギリスのところに行きました。
「キリギリスさん、私たちはどうしたらいいでしょう?」
話を聞いたキリギリスは、
「なるほどそういうことか。この前は君たちに助けてもらったから、今度はぼくが助けてあげる番だね」
といって、アリたちに歌や踊りや、いろいろな遊びを教えてあげました。

アリたちはすっかり元気になり、一方キリギリスは「人生を楽しむコンサルタント」として有名になり、文字通り遊びながら高収入を得て、幸せに暮らしましたとさ。

2 ウサギとカメ2045

ウサギに足の遅さを馬鹿にされたカメが腹を立て、どちらが速いか、1km離れた山の麓まで競争をすることにしました。商売上手なキツネがこれをレースイベントに仕立てて観覧者とスポンサーを集め、勝った方に1000万円の賞金を与えることにしました。

ウサギとカメレース1日目、カメは懸命に歩いて、100m進みました。ところがウサギは1mだけぴょんと跳んで、後は寝てしまいました。
2日目、カメはさらに100m進み、200m地点に到着しました。ウサギは今度は2mだけぴょんと跳んで、また寝てしまいました。
3日目、300m地点に達したカメは、7m地点でぐうぐう寝ているウサギをモニターで見て、勝利を確信しました。
9日目、カメがゴールの100m前まで達しても、ウサギはカメより389mも手前の地点で寝ていました。

「ウサギさん、一体どうしたんだろう。もう勝つのをあきらめたのかな?」
ところが最終日、まさにカメがゴールインしようとした瞬間、頭上を ウサギがすごい勢いで跳び越えて、ゴールのちょっと先に着地しました。

「ウサギさん、これは一体どういうことですか?」
「カメ君、ぼくの体は人工筋肉と人工関節でできていて、 デジタル制御で動くんだ。まだ開発中だったから初日は1mしか飛べなかったけど、システムをアップデートして、飛べる距離が毎日2倍になっていったんだよ。これをエクスポネンシャルと言うのさ。君には悪いけど、コツコツとインクリメンタルに努力した者が勝つという時代は終わったんじゃないかな」ニンジャタートルズ (003)
「そうなんですか。じゃあ、私はどうすればいいんでしょう?」
「賞金の1000万円を君にあげるから、それでぼくみたいに体を改造してもらえばいい」
「いいんですか?負けたのに賞金を全部もらっちゃって?」
「今はお金のためにスピードを競う時代じゃないんだ。それより、そのお金を使って
世の中の役に立ってくれ」
それを聞いたカメは自らの体を強力に改造し、同じ志をもつ仲間とチームを組んで
世界中の悪と闘う正義のヒーローになりましたとさ。

3 花咲か爺さん2045

ある所に心のやさしいお爺さんと、欲張り爺さんが隣同士で住んでいました。
ある日、やさしいお爺さんは道ばたに捨てられていた子犬型ロボットをかわいそうに思い、拾ってきて修理してポチと名付け、飼うことにしました。
数ヶ月後、ポチが裏の畑で「ここ掘れワンワン!」と吠えるのでそこを掘ってみると、頑丈なコンテナが出てきました。表には「最高のデバイスたち」というプレートが貼ってあり、中には初代のAppleⅡやMackintosh、iPhoneなど、ヴィンテージなITデバイスが完璧なコンディションで保管されていました。おじいさんがそれをネットオークションに出したところ、たいへんな高値で売れました。

欲張り爺さんそれを見ていた隣の欲張り爺さんは、ポチを借りてきて自分の畑を探させ、やはりコンテナを掘り出しました。表には「世界最強のコンピュータ」というプレートが貼ってありました。
「こんなに小さいコンテナに収まる最強のコンピュータとは、さぞかし高く売れるじゃろう」
欲張り爺さんがコンテナを開けると、そこには1本のLANケーブルと、単体では何の役にも立たないシンクライアント端末、そして「これからはクラウドコンピューティングの時代だ!」と書かれた紙が入っているだけでした。
欲張り爺さんは怒ってポチをバラバラに壊してしまいました。

残骸を引き取ったお爺さんが悲しんでいると、突然ポチの目が光り、壁になにやら遺伝子配列のようなものが投影され、次に枯れ木が芽を吹いて満開の桜になるまでのタイムラプス映像が映し出されました。どうやら何かの衝撃で、前の持ち主のデータファイルが再生されたようです。
お爺さんがキッチンにあった万能ジェネレーターに遺伝子配列を見せると、ピンク色をした粉が出てきました。開け放した窓から入った風がその粉を吹き飛ばすと、どうでしょう、近くにあった鉢植えの木が満開の花を咲かせたではありませんか。
「なんと、合成されたのは花成ホルモンのフロリゲンじゃったのか。あの映像はタイムラプスではなくリアルタイムだったんじゃな。これを皆に見せたら喜ぶじゃろう」

お爺さんはピンクの粉の残りを持って通りに出かけ、木々に振りかけると、冬だというのに満開の桜並木になりました。そこにお殿様の行列が通りかかり、喜んだお殿様はご褒美としてお爺さんにたくさんのストックオプションを下さいました。
それを陰で見ていた欲張り爺さんは、道にわずかに落ちていたピンクの粉を持ち帰り、それをリバースエンジニアリングすると、灰色の粉が生成されてきました。
「なんだかちと色が違うようじゃが、まあいいじゃろう。これでわしも大金持ちになれるぞ」
欲張り爺さんは灰色の粉を大量に生成し、お殿様の行列が通りかかる頃を見計らってバラまきました。
ところが木々は花をつけるどころかますますしおれてしまい、粉がお殿様の目に入ってしまって大騒ぎになりました。どうやらメッセンジャーRNAによる転移がうまく行かなかったようです。
カンカンに怒ったお殿様は、欲張り爺さんを牢屋に入れてしまいましたとさ。

―――――――――――――――――――おしまい――――――――――――――――――

いかがでしたか?

工業化時代には、「決められたことをきっちりと勤勉にこなす」労働力が求められました。「アリとキリギリス」や「ウサギとカメ」は、子供たちにそのような価値観を学ばせる目的にも使われていたような気がします。

しかし、決められたことをきっちりと勤勉にこなすのは人工知能やロボットが最も得意とする分野で、その能力範囲は単純作業から、もっと複雑な判断・思考を要する仕事にまでに拡大しています。人間もそろそろ「勤勉は美徳」「コツコツ努力する者が勝つ」という価値観を変えなければいけない時期に来ているのかもしれません。

え?「花咲かじいさん2045」は、道具立ては変わってるけどストーリーは昔のままじゃないか、ですって?

そうなんです。「欲深さよりも、優しさが勝つ」「自分の利益のためでなく、他人が喜ぶことを目的に行動する」「他人のテクノロジを形だけ真似してもうまくいかない」。これらの教訓は今でも通用するだけでなく、将来もっともっと大事になってくると思います。

(文中のイラストは筆者の手によるものです)

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【参考】ウサギとカメの走行データ

図表1と2

 

 

 

 

 

 

 

  

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